メイド

□ご主人は暑がり
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海軍本部へ到着し、手に持ったビスケットを頬張りながら自分の書斎へと続く廊下を歩いていると


ほとんどのすれ違う海兵達が物珍しい物を見る顔をして、視線を送ってくる



10分前に大将青雉が出勤・・・・!?



声には出さないが、誰もが驚いていた



何枚目かのビスケットを口に入れた時、廊下の向こうから歩いてくる人物と目が合った



「珍しい事もあるもんじゃのぉ

こんなに早くに出勤とわ…


まぁ、あんな能面のようなメイドと一緒じゃと

息が詰まるわなぁ…」



露骨な迷惑顔を浮かべ、微笑するそいつはそう嫌味を言って、クザンの前で足を止める




サカズキだ_






「そちらさんのメイドより

よっぽどかわいくてしっかりしてますよ_ 」



回りくどい言い回しをするサカズキに対して、クザンは直球で返事を返す


見る見るうちにその表情を険しくさせ、額に青筋を作るサカズキ


クザンはフッ_と小馬鹿にした笑みを浮かべる



「わしのメイドが貴様のような男のメイドに劣るはずなかろうが!」



「…なら、明日の一日だけ交換してみる?

メイド」



言ってから


しまった_と思った



かわいいメロちゃんに、こんな頑固おやじの世話をさせていいものなのだろうか…



いいわけがない…



が、後にも引けない状況でサカズキの返事を待つ


「いいじゃろう、貴様のメイドが少しでも失態を侵せばすぐにでも送り返してやるわ」



「じゃ、決まりってことで」



それ以上の会話はなく、サカズキは怒り顔のまま廊下の向こうへ去ってゆく


見送るでもなくクザンは書斎へ入り仕事を始める



「やっちまったなぁ・・・・」



そう言って、最後のビスケットを口に入れた





____________






窓へ目を向けるとすっかり暗くなっている


数時間前に暖炉の火を消し、空気の入れ替えをした部屋は今朝の寒さを取り戻していた


メロは夕食の仕上げを終わらせクザンの帰りを待つ


まだ帰ってこないだろうと思ったが、門の開く音が聞こえた





ガチャッ_



「おかえりなさいませ」



「ん、ただいま〜」




靴を脱いでリビングへ向かうクザンの後をついてゆく



「ご主人、ご入浴になさいますか?お食事になさいますか?」



「風呂かな…ぁ〜…メロちゃん?」




正義と書かれた上着を脱いでメロに渡しながら、少々気まずげな表情を作るクザン

かわらない表情ながらも
大きなかわいい目が視線を合わせる



「はい」



「明日なんだけど、一日だけ、サカズキのおじ様のメイド…してくれないかな?」



「かしこまりました、では

サカズキ様のメイドと少々情報交換をしますので

電伝虫を夕食後に、使用させていただきます」





「そうだね、向こうも夕食頃だろう…し…?」



リビングの向こうでプルプルプル≠ニ電伝虫が鳴く



「では、ご入浴なさってください」


失礼します_


と言って早歩きで電伝虫の受話器を取るメロ


相手は誰かと思ったが、会話から、どうやらサカズキのメイドからの電話のようだ



(…メロちゃんの方がすでに勝ってるじゃん…)


食事時に連絡してくるなんて…


とクザンは思いながら、文句も言わず対応するメロを見送り風呂へ向かう




__________




「ほかに気を付ける点はございますか?」



『ん〜…ぁ、クザン様の好みのタイプは?』


「申し訳ありません、存じません昨日配属したばかりなので」


大人びたあだっぽい声が電話の向こうで

クスリ_

と笑みを作ったのがわかった


メロは声色や表情を変えず淡々と返事を返す



『…まぁいいわ、他には何にもないよ』



「では、明日の朝5時にそちらへ向かいます」



『5時!?それは早いわ…起きられるかしらねぇ…いつも6時半に目は覚めるんだけど…』


「…では、差し支えなければ外にカギを隠してくだされば有難いのですが」



『なら…そうしましょ』  


___そうして、家の鍵を外の一番小さな盆栽の下へ置き、朝5時に伺うこととなった




________




その頃クザンは全身を洗い終え、浴槽に入ろうとしていた




「・・・・・・・ん?」



片足をつけて異変に気が付く_


風呂の湯が全く暖かくない、むしろ


あと少しで溶けて水になろうとしている氷が2つほど隅で揺らいで浮いている



(嫌がらせだろうか…)



と一瞬思ったが、思い当たる節が…



あいたた_


と頭を右手で抱えた


昨日風呂を出るときいつもの癖で悪魔の実の能力で少し凍らせてしまって

その後にメロが風呂に入ったから勘違いしたのか…




主人は水風呂派とか変わった人だと思われたか…





浴槽の水を抜いて、その後


湯が勝手に溜るようにボタンを押して風呂場から出る






ふと脱衣所で目に留まるドライヤー…


(こりゃ髪もあんなになるわ…)


クザンが手を伸ばして届く距離にあるソレはメロには踏み台がいる高さだろう


一番低い棚へ移動させて

用意された服を着てリビングへ行くと

おいしそうな匂いが香る



「メロちゃん…?」



「はい」



「ごめんね…あーっ…と…」


とリビングの中間で話しながら

視界に入った暖炉は火の気がなく冷え冷えとしていて_


メロの指先は白い肌を更に白くさせている…



「何かご不満な点がございましたか?」



無性に抱きしめたくなった_


こんなにも自分の為だけに尽くしてくれるメロ

かわいくて

愛おしいとすらも思えた



そんな感情を表に出さないように、唇の片側を持ち上げてみたが


眉間にしわを寄せ、目を細めたそれは、笑顔とは受け取れない歪んだ表情を作った



「不満はないんだけどね

ただ、勘違いさせちゃったみたい…かな?」



「……?」



いつ見ても無表情で静止した顔が傾く

だが、クザンの胸辺りまで持ち上げた右手を見て

ほんの少し目を大きくさせ首をもとの位置へと戻した




「ヒエヒエの実…


悪魔の実の能力で氷人間なんだよねぇ…


まぁ…だから、暑がりに見えるかもしんないけど

風呂は熱いのが好きだし


寒い日はリビングの暖炉はつけ…て……


メロちゃん?__ 」



氷の手を、小さな両手がまるで、壊れ物を大事に…これ以上崩れさせない_

そうするかのように…

そっと包む__



メロの体温で溶けた氷の雫が

その白い小さな指先を伝って

小指の付け根から

床へポタリと落ちた_



ドキッ_と心臓が高鳴る___



悲しみの色を浮かべた目が、氷の手を見つめる









「あんなにも・・・海を愛しているお方なのに……」









昨夜の海を眺めるクザンの横顔を思い出す_






今にも水底に落ち込んでいきそうなほどの切ない声_

それでも、いつもと同じ位置に固定された顔のパーツ

だがクザンの目には、メロの表情が悲しみの色を増したように見えた___



「・・・・・」



まるで頭の奥底で浮遊していたシャボン玉が


パッ_


と小さな音をたて割れた後に

その粒子が舞い

それが記憶となりジワリと体中へめぐってゆくかのような__





やがて思い出させる・・・




海に嫌われたあの日を____




耐えられない悲しみと同時に


沸き上がるメロへの愛おしさ・・・



思わずメロを引き寄せて、冷たい体で抱きしめた_



「ごめんね…

不安にさせるつもりは…

なかったんだんだけどねぇ…」



いつもの低く芯の通ったその声が

微かに震えているように聞こえた気がして_


メロはそっとクザンの胸に顔を擦り寄せた



「…」



「……?」



答えるようにクザンもその小さな頭に大きな手を移動させて

まるで恋人同士がするように身を寄せ合う


だがそれはほんの数秒で


メロがクザンの身体をそっと押し返す…


引き留めるでもなく、クザンは腕の中からメロを潔く解放させた



いつもの人形のような静止した顔がクザンを視界に捉えて見つめる


クザンはフッ_と微笑んで見せたつもりだったが、悲しみの混ざったその表情では綺麗な笑みは作れなかった_





「ご主人…


海に愛されているからこそ・・・

その身体は波に攫われるのでしょう…


出過ぎた真似を行ってしまい

申し訳ありません


夕食の準備をさせていただきます_ 」





深く頭を下げて、メロはキッチンへと何もなかったかのような足取りで消えてゆく



「………______ 」



クザンもまた、右手で頭を掻くと


何もなかった風を装って




暖炉に火を灯した_____
















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