メイド
□ご主人はサカズキ様
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メイドはクザンの手をとって席を立ち
座るクザンの顔に空いた手を添える
ヒンヤリとした頬を愛おしむ様に_
「…あらら…サカズキさんに怒られない?」
その手を払いのけるでもなく
女を引き寄せることもなくただ微笑を浮かべて視線を交える
「言わなければ…誰にも知れぬこと…」
色っぽい女の低い声が耳の近くで囁く
ゾクリとするほどの囁きは男ならだれでも靡いてしまいそうになるほどで___
「まいったねぇ__________」
俺そういうの、しないから_
そう言おうとしたが
カチャリ_
開けたリビングのドア
その先に男と女が手を重ね、身を寄せる姿
二人の視線がメロに向けられる
「・・・・・・・・失礼しました」
どうぞ続きをして下さい_
と言わんばかりにまた閉まって行くドア
「っ;」
(追いかけ_ない_と・・・・・?)
クザンが席を立つ前に
目の前の女がメロの後を追いかけていた
行き場を失った感情と握りしめた拳がフッ_と消えた・・・・・・・・・・
追いかけて・・・・弁解したところで
(興味ないだろうしね___)
_______________
「ちょっとアンタ
待ちなよ_ 」
暫く外で時間をつぶそうと思っていたが
庭に出た所で、呼ばれて振り返る
「何でしょうか?」
「サカズキ様は?!」
苛立ちと焦りをかき交ぜたような声で
眉間にしわを寄せて口をまげるメイド_
美人な顔が怒りで歪んでいる・・・
「…私の仕事がいたらなかった為返品されました」
(返品…?
そんなわけがない_
あの人は怒りっぽいけど
ほんとは…)
怒りが徐々に消え主人を思い出す表情は
叶わぬ恋の片思いの相手を思い浮かべるような切なげな表情___
「そんな事をする人じゃないよ…
サカズキ様は…
私のような出来損ないでも置いて下さってるんだから___ 」
「…そうですか」
「…私はねぇ、サカズキ様があんな広いお屋敷で一人でいるってだけで・・・・」
心配になるんだよ_
何かに押しつぶされてしまいそうなあの人を見るのが___
「・・・しかし
先ほどはクザン様と仲良くされていたので…
それほどの忠誠心があるようには
お見受けしませんでしたが…?」
メロの言葉に、少し目を丸くさせて
フフッ_と綺麗な唇が笑って目を細める
「あれは
いつも聞いてるクザンって奴がどんな男だろうと思ってね_
溺れさせてやろうと思っただけだよ…
中々いい男じゃないか…
大事にされてるよ、あんた
・・・・さて、私も帰るわ_」
「…」
_溺れたのだろうか?
モヤッ_と心に霧がかかった後、風が吹いてその霧が晴れる
私には…関係のない事_
「そうだ_」
メイドがメロの横に立ち妖笑を浮かべて耳打ちをする
「戻ったら、笑ってやんな…
あんた可愛い顔してんだから_」
そう言って去ってゆく_______
『なぜ笑わん?』
赤犬の声が頭の中でそう言った
言葉は痛みを伴って胸に染み渡る_
この顔が憎い____
_______________
「ただいま戻りました_」
「…おかえり〜」
リビングへ戻ったメロは着物姿のまま、机に残された空いた皿を片付けてゆく
「お酒は、まだ飲まれますか?」
「_____そうね、飲もうかな」
片付いたテーブルに熱燗とつまみが置かれる
何も聞かれないし、何も言わない_
クザンはたどたどしい心を隠し平然を装う
無表情なメロからはやはり気持ちがくみ取れない____
「…メロちゃん?」
「何でしょうか?」
「・・・・君も飲むの?」
目の前に酒器を持ち座るメロ
メロは酒は飲まないだろうと勝手に思っていたので
少し驚いた_
「ダメ…ですか?」
無表情ながらも少々悲しそうに声を出すメロ
クザンはその姿にやはり胸を打たれる衝撃を受ける
小さな両手に収まるお猪口を持って
和装したメロは
可愛い_ではなく
美しい_
結い上げた髪の下に伸びる白い首筋
普段は首元まで閉められて見えないほっそりとした鎖骨に小さなほくろが見える
赤く色づいた唇は艶めいていて
見れば見るほどに
美しいという表現さえも拒むほどの美貌
「綺麗だね_」
そう言って熱燗をお猪口へ近づける
「…ありがとうございます」
(この子のこと…たぶん好きだわ…おれ…)
恋しいと思う気持ちが心の奥底に潜む
何度も心を奪われて___
しかし_最後にはこう思う
君は俺に…興味ないんだろうね_
満たされることのない思い
そして_
これからも永久に満たされることはないであろう
君はメイドで俺は主人…__
その心を思うと
無意識にその表情を曇らせてクザンは手に持った酒を一口で飲み切った________