メイド
□メイドの気持ち
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だがその表情は長くは続かず
彼女の手がまた俺の胸を押して
誰かの目を恐れるかのように
おどおどと後退る___
メロは視線を逃がして
戸惑ったように
唇へその白い手を重ねる
「嫌だった?」
そう言ってご主人は優しい顔を残して困り顔を浮かべている…
答えることも出来ず
私はただ、首を小さく横に振って
怯えていた_______
歪む視界に記憶が映し出されてゆく_
暗く重たい空気が肩を重たく上から押し付けてきて
徐々に全身が泥の中に浸かってゆく_
まるで金縛りにあったかのように動けなくなり
発作のような苦しげな息遣いで心臓が激しく脈を打つ_
『怯えなくていい・・・君の涙はこんなにも綺麗だ』
耳のすぐ傍で息を吹きかけられるような
鮮明に聞こえた声…
息を吞むように…
短い息がハァッ_と出て喉で詰まって
恐怖の波に飲み込まれた_
『笑ってごらん…ほら…』
苦しそうにそう言って
私の恐怖で引きつった笑顔を優しく撫でる指先
私は確かに彼を愛していた・・・
『君のその顔が…声が…悪いんだ…』
彼の瞳も…怯えていた…
最後には愛する気持ちもなくなって
彼は恐怖の塊でしかなくなっていた
狂気じみた表情が私に言う
お前のせいだ_と
その表情が狂わせたのだと…
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太陽から忘れられたような真っ青な表情で
メロの体が小刻みに震えている
支えようと差し出した手
「ヒッ_________」
微かに彼女の口から悲鳴がもれた_
「何があったの…
怖くないから、こっちにおいで」
出来るだけ優しくそう言って
やんわりと笑顔を作る
「っ…ご主人様…私を…殺さないで下さい」
「・・・・・・・・」
心当たりのないその言葉に
瞳を大きく見開いた
彼女の目に一体何が見えているのか…
・・・・・・_
ただでさえ表情をコロコロと変えるメロに驚いているのに
初めてみる表情に嬉しさの反面
自分に重ねられた人物に
言いようのない怒りが腹の底から湧き出てくる
正気を取り戻させるために抱きしめることも出来ない…
メロは足元へ視線を下ろしたままで
小さな声で知らない何かに許しを乞うている…
ごめんなさい…
許してください…
「ッ・・・・・・・・」
クザンは一度口から大きく息を吐いて
鼻から空気を入れ胸を膨らまし
口を結んで
覚悟を決めたような真剣なかおでメロを見下げる
「メロっ!!!」
「っ!?」
空気をびりびり震わせるほどの雷声が響き渡って
メロの瞳は瞬きを忘れたかのように見開いて
そこにしっかりとクザンが映し出された
「…俺は、誰?」
声を落ち着かせて真剣な表情で
その瞳を見つめ返す
「…ク…ザン……様…です……」
空気と同化しそうなほどの頼りない声が自分の名を呼んだ瞬間
その身体を引き寄せて抱きしめる
肩の骨も砕けそうなほどに激しく抱きしめられた
闇が薄紙を剥ぐようにわずかずつ白み始める_
徐々に呼吸が落ち着いて
ご主人の冷たい体温が熱くなった頬をやんわりと冷やしてくれる__
もの言えぬ安心感に包まれて、その胸に顔を擦り寄せる
涙があふれて、また視界がにじむ
涙と一緒に
あたたかな波のようなものが体中に広がってゆく____
「・・・好きになっても・・・いいんですか?」
「何度も言わせないでくれよ
メロちゃんの事、好きだって言ったでしょ」
「ご主人…
お願いしても…いいですか?」
「ん?いいよ」
「 もう一度キス…してください 」
私がそう言うと
主人は腕の中の私を
少し驚いた顔で見下ろし_
顔中から一面に湯気が湧き出すように顔を真っ赤にした後
一度顔を逸らせて
困ったように頭をかいて
照れくさそうに笑う____
「そんなお願いなら、いつでも聞くよ」
メロの白い筒のような首に片手を滑らせて
親指で顎を押し上げて顔を上げさせる
美しく整った顔が少し頬を赤くして
そっと瞼を下ろす_
長い睫毛が少し震えている…
腰を屈ませてその唇にキスをする
さっきよりも少し長めに_______