メイド
□海賊さんとメイドさん
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医療棟の周辺には大勢の海兵がそれぞれに武器を持ち必死になって海賊、ローを探している
クザンは兵達を横目にしながらも医療棟へと足を踏み入れた
そこには外と同じように海兵達が五人一組になりフロア内をくまなく探している
大将の登場に海兵達は敬礼をして見せたが、クザンはそれを視界に入れながらも何もアクションを返すことはなく、それどころじゃない_といった風に、必死そうに病棟内のフロアを見渡した
「あっと、そこのナースさん?メロちゃんの...クザン専属のメイドは何号室に居るの?」
通りかかったナースを引き留め落ち着いた風に言ったが、右足は言う事を聞かず貧乏ゆすりをしてしまっている
「そ・その方なら、6階の607号室です;」
海軍大将から声をかけられ怖気づきながらも、ナースは手元の用紙を確認してそう言うが、言い終わった頃にはクザンの姿はなくなっていた
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「仕方ねぇ...暫く人質になってもらうぞ」
「...かまいませんが、乱暴はよして下さい」
変わった女だ_ローは白衣を脱いで、ベッドに座るメロを軽々と左腕に抱き上げた
一気に距離が近づき、メロの整った顔が自分を見つめる
「無表情でいられちゃ、迫力の欠片もねぇだろ;せめて助けぐらい呼べ」
呆れたようにため息交じりにそういうと、表情というものが欠落している彼女の可愛らしい顔が傾いた
「...声を出していればいいんでしょうか?」
恐怖≠ニいう感情は彼女には存在しないのだろうか?
だが、この状況では好都合であった
暴れられても面倒だ…_
「あぁ、適当に出しとけ」
ローは視線をドアへ向けると、右手にナイフを持ち、メロの首元へ先を向けるが、それでもメロは顔も体も動じた様子はなく、そのナイフをジッと見つめているだけだった
ドカッ!!!!_と勢いよく廊下に続くドアを蹴り破ると、海兵が五人視界に入る
「おい...」
海兵達が武器を構える前にローの言葉がそれを制した
「コイツを殺されたくなかったら武器を捨てろと上司に伝えて来い」
低い声でそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべるロー
海兵達はその迫力と、人質の存在で身動きが取れず、グッと喉を鳴らし、負けじとこちらを睨みつけてくる
ここで背中を見せるわけにはいかない
その思いが海兵達の動きを止めさせていた
その時だった、パチッと廊下を照らすライトが不自然に点滅し、肌を刺すような冷気が廊下の向こうから襲ってきた
今までナイフの先ばかり見つめていた無表情の女の顔がその冷気の先へと向き、あ_と短く白い息と共に声を出しその正体を目に捕らえた
ローもそちらへと視線を向け只ならぬ気配に身構える
「...あらら...捕まっちゃったの?メロちゃん...」
苛立ちと怒りを含んだ声が聞こえ、点滅するライトがパキッ!と音を立て割れてゆく、薄暗い視界に浮かぶ男の眼光がギロリ、とローを睨みつけた
「...助けて下さい、ご主人」
「棒読みかよ;」
メロの危機感のない声に突っ込みを入れながらも、ローは久々の手ごたえに苦笑いを浮かべた
どうやら、丁度いい人質を手に入れたようだ
いくらでも隙はあった筈なのに、今も、攻撃しようと思えば出来る、だがアイツは攻撃を仕掛けようともしない
「...うちの子をどうする気だ?」
「俺がここから脱出できれば多分、返してやる」
「多分...ですか?...ご主人、道を開けて下さい」
いつもの無表情がそう言って丸い目がジッと見つめてくる、他の男の腕の中にいるだけで、こちらは胸が痛むと言うのに...
「...後でちゃんと...迎えに行くからね」
クザンは微笑み、渋々道を開けた
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人質の効果は覿面で、館内放送では異例ともいえるような放送が流れている
『人質の安全を守るように、全員道を開けろ!!!!!!!!』
それはセンゴクの声で、海兵達は放送の通りに海賊であるローに道を開ける
睨み付けるような視線の中を悠々と歩くロー、メロはナイフを突きつけられたままだが、その視界は左右に分かれてゆく海兵を見ていた
「助けて下さい、きゃー助けて―...まだ、続けた方がよろしいですか?」
棒読みで定期的に言うのも疲れたのか、メロはまだ熱のある身体をローにもたれさせ、顔をローの肩の上に置いて小さく息を吐いた
「あぁ、少し休んでろ」
何を考えているのかさっぱりだが、病人に変わりはない、ローは周りに気が付かれないようにメロの耳元へ唇を近づけ、小さな声で囁くようにしてそう言った
「あのクソガキ...メロちゃんとベタベタしやがって...ぶっ殺す...」
遠巻きからクザンはロー達を見て額に青筋を浮かばせた
「貴様、何しちょるんじゃ...メロを人質に取られるなんぞ...一緒じゃなかったのか!?」
怒鳴りつけるようにして現れたのはサカズキで、クザンは言い返しも出来ずに拳を握りしめた