メイド
□ご主人、仕事中です。
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クシュンッ_
「あららら...ちょっと誰か、服用意して」
クザンの腕の中で小刻みに震える小さな身体
ぶり返したら元も子もない...___
甲板の海兵に苦笑いを浮かべクザンはそっとメロを解放しようと腕を離したが、メロは必死そうに小さな両腕をクザンの腰に回ししがみ付いてくる
「ヤッ...___」
「...;風邪ぶり返したらどうすんのメロちゃん?」
そのまま立ち上がっても彼女の手は頑なに離れようとはせずに殆どぶら下がった状態だ...
可愛いのでこのままぶら下げておきたいが、また風邪を引いて離れ離れになることは目に見えている
彼女の両肩を掴んで少々強引に身体から剥すと涙目の上目遣いが俺を見上げた
「...申し訳ありません......」
ってか、その格好反則だからね
ノースリーブにビキニパンツって、誘ってるのこの子?
今はクザンの正義と書かれた軍服を羽織らせているので彼女の水着姿は自分の視界にしか入ってはいないが
これは毒だ..._______
特に、男だらけのこの船でこんなにも可愛い俺のメイドの肌を見せる訳にはいかない
グスン_と鼻をすすって俯く彼女の頭を軽く撫でてやるが、彼女の身体はまだ俺の事を警戒しているのか、怯えたようにヒクリと小さく強張った
参ったな...____
さすがに怒りすぎたか...
そりゃ怖いよなぁ;_________
うぅん___と小さく唸って彼女に気が付かれないようにため息を吐き視線を甲板へと向ける
海兵達は何が何だかわからない様子でこちらを見る者も居れば、仕事をこなす者もいる...
マリンフォードの自宅へ引き返して彼女を安心させてやることも出来ない________
考えを巡らせていると、海兵が船に乗っている一番小さなサイズの海兵の制服を走って持ってきた
「クザン大将、これを」
「ん、ありがと...メロちゃん、取り敢えず部屋行って着替えようね?歩ける?」
まるで子供の機嫌を取るように、彼女の俯く顔を覗き込んで言う
彼女は少し顔を上げて頷くだけの返事をした
少しでも触れればまた泣き出しそうな彼女の気配を背中で感じながら、時折振り向いては存在を確認する
軽率な言葉を発してしまい彼女を怯えさせてしまった...
吐き出したいような自己嫌悪に襲われながらも今できる事や言葉を慎重に選んでいる自分が情けなくなってくる...
クザンはメロに見えない正面に向けた顔の額に深い皺をよせ後悔を噛み締めた___
その部屋は木造で、木の匂いがした...
そこは書斎のような部屋で、2人分の食器、書類の詰まった棚、2つのソファーに挟まれた丸いテーブル
部屋の窓際の方に一人がけの立派な椅子と机
その部屋とつながった隣の部屋へとクザンに導かれた
そこは寝室になっていて、背の高いクザンでも余るほどの大きなベッドとベッドの横には小さなテーブルが設置されている
「隣の部屋で居るから、向こうにシャワールームもあるからね」
何処か分かる?_
先ほどの恐ろしいほどの低い声のご主人はもうどこにもいない
いつもより増して優しい声でそう言われて、私は寝室の向こうにあるドアを一度見て、またご主人を見上げ頷いた...
「ん、じゃぁ...」
そう言って海兵の制服を渡されて、隣の書斎へと振り返るご主人
「...」
行かないで下さい_
いつもなら言えたはずのセリフは何故か喉の奥に詰まって出てこない、そのままドアはパタン_と閉まってしまった...
不安が胸の奥底でわだかまっている
それは今朝までの嫉妬の不安ではなくまた別のモノ...
ご主人は笑ってくれていた
ソレなのに、私は...
どこかで恐怖を隠し切れない
あきれ果てたような軽蔑の目つき、低く怒りを含ませた声...
それがどうしてもかき消されない...
もし、なにか間違ったことを言ってしまったら
もし、このドアをまた開けた時...
また、あの目で、声で...
私は存在を否定されてしまうのではないかと...
そう思うと怖くて、こんな感情を彼に抱いてしまっている自分自身にすら不安を隠せない...
「......」
大丈夫__________
声に出さずにそう言い聞かせて、言われたようにシャワーを浴びて海水を洗い流す、暖かなシャワーのお湯で冷たくなった体は徐々に熱を取り戻してゆく...
小さく息を吐いてシャワーを終わらせた
「.........」
そして、小さいような大きな問題が浮上した
手渡されたのは海兵の制服...
それだけなのだ...
この船に見た限りでは女海兵はいなかった...
下着がないのだ...
水着はまだ海水でびしょ濡れで下着代わりに着られる状態ではない...
取り敢えずこの事実をご主人に言わなければ...
そう思いながら制服を着てみたのだが、そこでも問題が浮上した_______
「ご主人...大きすぎます...」
遠慮がちに開いたドア、座っていた椅子から腰を持ち上げ彼女が見える位置まで移動すると、向こうの寝室で居心地悪そうに俺を見上げた無表情
思わず赤面して目を泳がせた
一番小さなサイズである制服でもメロには大きすぎたようで、今にもズレ落ちそうなズボンを右手で固定して、上着は彼女の膝上あたりまでダラしなくブカブカ、被らなくてもいいMARINE≠ニ刺繍されたサイズの合わない帽子も斜めになってメロの片耳を隠してしまっている
先ほどの水着姿の方がまだ刺激が弱いとさえ思えてくる...
「あーっ...と...メロちゃん、ほんっと...」
ほころびそうな口元を片手で覆ったが、ハハッ_と崩れる表情
なんでこんなに可愛いのよメロちゃん___
「ご主人、下着がないのです」
「.........ぇ?」
「ブラジャーとパンツです」
俺を殺しに来てる______
「ッ...い、いや、それは分かってるんだけどね...ってことはじゃぁ...今...////」
そこまで言って、ボッ_と更に顔を赤くさせて、もぉ...///_とその場にしゃがみ込んで、片手で額を抱えた
彼女の表情は照れたりも恥ずかしがったりもせず無表情で、どうしましょうか_と小首を傾げている、それを指の隙間からできた視界でチラリと見上げて赤面を誤魔化すようにため息を吐いた___
「ねぇメロちゃん?」
「はい」
「この部屋に隔離してもいい?」
「......はい...」
今の彼女の間≠フ意味は分かる、彼女は海が好きだ
きっと甲板からの風景を見たいだろう、青い海に囲まれて、青い空を見上げて...
俺もそれを楽しむメロちゃんを見たいが、こんな無防備な俺のメイドを人の目に晒すとなれば、気が気じゃなくなる...
「近くに島があった筈だから、そこに立ち寄って洋服を買おう、下着もね?それからなら船の中自由にしてくれてかまわないから」
「かしこまりました」
「取り敢えず、その...あーっと...なんだ...その...それ、どうにかしなきゃね?」
「どうにか...」
どうにか出来るのならとっくにしてますが?
そう言いたげな無表情が俺の目の前で同じようにしゃがみ込んでまた首を傾げた
「あのね、煽るのやめなさいな...///」
彼女の頭に被さったサイズの合わない帽子をとり上げて立ち上がると、参ったな_と頭を掻いた
「ご主人のシャツを貸していただけますか?」
「...ダメ」
絶対に、やめてくれ、家に戻ったらいくらでもしてくれてかまわないが
ここでは絶対にダメだ_______
クザンの脳内にはシャツ一枚のメロが想像されていて、そんな姿俺以外に見せたくはない、と口を曲げ否定したが想像のせいで頬は薄らと赤くなってしまっている
「...ご主人、心配なさらなくてもシャツ一枚で登場は致しませんので」
「...なら...いいけど...」
無表情の彼女を疑いの目で見て、隣の部屋へと見送り、数分待つと先ほどよりかは納得できる服装で彼女が登場した
それでもやはり、目を奪われてしまう...
「下着は水着が乾けば代用できますので」
ズボンを縄できつく固定し、クザンのシャツをズボンに押し込み、胸には青色の海軍のスカーフを巻き付けブラ代わりにしているようだ
クザンは見え隠れする胸元の開いたボタンを一番上まで閉めてやるがズボンもシャツも袖を捲し上げていてなかなかに不格好だ
「もう少しで到着するだろうから、それまで我慢しててね」
彼女は俺の言葉を無視していつもの無表情でチラリと窓の外へ目を向けた
マリンフォードはもう見えなくなって、辺り一面今頃は真っ青な海と空だ
「甲板に出たい?」
「っ...いいえ...」
「...メロちゃん?」
そこでやっと気が付く、彼女の指先が震えて居る事に...
メイド...やめたいの?
自分の発した言葉にもう何度も後悔している...
彼女は...怯えている...
俺の存在に......