メイド
□メイドの笑みは極上
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マリンフォードを出航したトラン国の船は順調にその針路を辿っていた
先日まで赤みを帯びていたメロの左頬も殆ど目立たなくなり、痛々しいガーゼは剥がされていた
「代わります、メロさんずっと動きっぱなしだから、少し休んで」
船内の王室清掃も残りベッドメイキングのみとなり
ティアとメロは昼に干したシーツを甲板から取り込んでいた
ティアがメロからシーツの入った籠を奪う様にして悪戯っ子のように微笑むと甲板から船内へと続くドアへと駆け出した
「お言葉に甘えさせていただきます」
彼女がそう言い終えた頃にはティアの姿は船室の中へと消えてしまっていた
船にはそれなりに使用人の数も多く配備されており
メイドの仕事と言えば王室の清掃と洗濯物ぐらいだったが
メロは必要以上にドラクルに呼ばれては暇つぶしの相手をさせられ、休む暇もなかったのだ
肩の力を抜き、ゆっくりと眺めることも出来なかった海へと顔を向ける
真横には海軍の船が横並びに並んでいたが視線を変えれば視界のどこまでもが海だった
表情は変わらないように思えたが僅かにその瞳に安堵の色が滲ぶ
手摺まで向かうと落ちないようにそっと海を見下ろして
夕日になろうとする太陽の光を反射しキラキラと輝く光景に思わず、ゎ_と声が出た
見飽きぬほど美しい光景に時が経つのも忘れ
その波の変化を楽しんでいた時
「落っこちたら危ないでしょ?」
多くの愛情とほんの少しの嘲りを含んだ声に顔を持ち上げると
何時からそこにいたのか、海軍船の手摺に右ひじをつけ頬杖をついてこちらを見るクザンと視線がぶつかった
いっその事...
一緒に溺れてしまって...
海の一部になるのはどうでしょうか...
そんなセリフ、言えるはずもない_
メロは微笑を浮かべるクザンに変わらぬ表情を向けて
「ご忠告ありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げた
「一緒に溺れるのもアリだけど
でも、カッコわりぃだろうね_ 」
クザンの言葉に心が春の夜のようにときめいた
「はい...とても_ 」
彼女はそう言って
まるで少女のように愛嬌したたる笑い顔を浮かべた
「...ほんっと可愛いんだから...」
彼女に聞こえない程の声で呟いて顔を赤らめたクザンだったが
今は公務中でこんな現場をドラクル国王に見られでもしたら
彼女がまた何かされるのではと考えてしまう
「お話し相手になってくださり、ありがとうございました
...失礼します」
クザンの気持ちを悟ったのかメロは先ほどの笑みを消し
無表情ながらも少し和んだ声でそう言ってその場を離れてゆく
クザンは溜息ひとつ吐き、見慣れた海へと視線を映した
夕暮れの赤は徐々に夜の深い青に飲み込まれようとしているところだった