メイド
□彼女と彼
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ティアや医療班の診断により国王ドラクルは解放されることとなった
ドラクルの命によりクロコダイルの失態はうやむやとされ
海軍監視のもとドラクルはトラン国へと戻ることとなった
「ドラクル様、お怪我の具合はいかがですか?」
レインベースを離れ、ナノハナの街へと戻った一行、その宿屋の一室
メロは未だメイドとしてドラクルの付き添いを務めていた
レインベースの牢獄で微笑を浮かべた表情は、今はピクリとも動かず、また得意の無表情が張り付けられていた
「...何故俺を庇ったんだ...」
清拭の為に持ってきた湯を張ったタライに布切れを浸すメロに視線を送らないまま、ベッド上で座るドラクルは床へと視線を落とした
あれは、静かな夕暮れの日...
セピア色の過去が色を持ち脳内で再生され始める
俺はシルヴァの命を狙おうとしていた...
「もお、メロを追いかけるのは止める...」
自分と似た兄の顔を真っすぐに見てそう言ったあの日、兄シルヴァは一度柔らかく微笑んだ
「私の寿命はそう長くはない...ドラクル、戦場は辛かっただろう...
私も、辛かった...
お前が命を落として帰ってくるんじゃないかと考えるだけで、恐ろしかった...」
そう呟くように話す兄の手は小刻みに震えていた...
俺は、握りしめていた毒薬をポケットへねじ込んだ
俺は...彼女の言う通り、シルヴァを殺す事なんかできなかった
数時間後、兄の死を耳にした時...
枯れはてたものだと思っていた筈の涙が自然と頬を流れ落ちた
俺は、やはり不幸だ________
水の音がし、湿った暖かな布が俺の額の汗をぬぐってハッ_と現実に引き戻された
「庇ったのではありません、事実を述べただけです...」
無表情の彼女はそう言って、布をまた湿らせると俺へと差し出した
それを受け取り、俺は何も言えずにハハッ_と小さく笑った
そして
「もう一つ..._」
と呟く
「もし...また俺が、一緒に死んでくれと...そう望んだら...?」
君は...どうする____?
揶揄した表情は消え、目瞬ぎもない真剣な表情で彼女を視界にとらえた
彼女は一度深く瞬きをした後、俺と視線を合わせ、変わらぬ表情で答える
「ご主人様が、御所望であれば...」
「......
ご主人様か...あぁ、そうか...君は
“メイド”だから...
メロ、君をクビにするよ」
彼女の心に俺はもういない...
妙に清々しく胸が軽い
俺は彼女にとって“ご主人様”でしかないのだ
もう、あの頃のように“恋人”には戻れない
彼女に気持ちがあれば...
きっとこう言うから...
“死なないで...一緒に生きて...”
君は優しい...
「...かしこまりました
ドラクル様、私は...まだ死にたくはありません、どうか
お元気で...」
僅かに微笑んだように見えた彼女の横顔
ドラクルの表情も軽く微笑んだ
「心配はいらないよ、もぅ、君を苦しめたりはいない
それに...
彼との邪魔もしないから」