メイド
□メイドたる者
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二日目、受験生の数は昨日よりも半数以下の70人程度
すっきりした会場内で全員が棒立ちになり、昨日の手荷物たちは会場の隅へと追いやられ、所々に山脈を連ねている
個々は互いを意識し会話すらも何処からも聞こえることはないが
咳払いや服の擦れる音が雑音を作っていた
今日でこの半数以下がまた不合格になる予定だが
有難い事に、凄腕な者はあまりいなさそうだ…
ホワイトボードに書かれた体技試験の協議は
何とも馬鹿らしい…
十枚の皿を制限時間まで守り切ったものは合格
皿を守れなかった者は荷物を持って即刻退場!
と___一体だれが考えたのか…
配られたごく普通の大きさ…両手を広げた程度の平皿10枚
だがそれは氷でできており、冷たくて滑りやすい構造になっていた…
滑り落とさないよう両手で抱え、体温で手を濡らしカタカタと震え耐える者もいれば
メロと同様に、溶けない様に触れる面積を最小限にし、尚且つ
皿を上下入れ替えたり、バランスを保って冷静に開始の合図を待つ者もいる
それでも、数か所からパキン____と砕ける音が響き、人の声が漏れ出す…
早速それを床に落とし、退場になる者が数名、その中には子供のように泣きじゃくって座り込む者もいた
僅かに人数は減ったが、総勢70名が睨みあう中
メロはその視線を、ニヤリと笑みを浮かべている試験官達に向けていた
何がそんなに面白いのか____
そうこうしているうちに、開始の笛が響き渡る
あちら此方で氷の皿が割れる音と、女たちの罵声が耳に入る
なるほど…
女同士のこんな喧嘩なんて中々見られるものではない
メロは次々と向かってくる女たちを風のようにかわす
まったく…
「面倒くさい・・・・」
つい本音が口をついたが、周りの騒音でかき消された
その顔にはやはり感情はなく、相変わらずの無表情で静止していた
素早く身を屈ませて、片足を延ばして半円を描くように足を床へ擦る
面白いようにそれに足をとられ、周りの数名が地面へと倒れたり、皿を落とす
やってみると出来るもんだ…
そうこうしているうちに終了の笛が鳴る
その場に残ったのは、メロを含め、たったの12名だけだった
たかが五分程度の時間でここまで人数が減るものなのか_とその場の誰もが思っただろう
所々で小さな歓喜の声が上がるが、メロはこの忌々しい冷たい皿をすぐにでも離したかった
ガシャンッ!
床に置こうとしたそれは、下半分の五枚を残し床へと砕け落ちた
意外と大きな音を立てたそこに、合格者と試験官が注目する
コトッ_と残りの五枚を床へ置き
メロは乱れた髪を両手で結い上げなおしながら、それらに視線を向ける
「すみません、手が滑りました」
眉尻を下げるでもなく、全く詫びている表情を作らずそう言って頭を下げるメロ
ほどなくして会場内の掃除が始まった
メイドも手伝うのかと思っていたが、昨日教卓の前にいたやる気の無さそうな男が一人残って、5分程度会場の外へ出されて
戻るとそこには12名の荷物以外、綺麗サッパリとチリ一つ落ちていなかった
______________
支給された夕食を食べ終えて、また昨日とは格段に冷え切っただだっ広い広間へ戻る
「………」
さすがに寒い…
メロは体の芯まで凍えるほどの寒さを、会場の隅で両膝を抱えじっと耐えていた
ほかの11名はヌクヌクと毛布に包まっている
「チッ・・・・」
思わず舌打ちをついてまたランニングに出かける
そこにはまたコビーがいて、また生傷を増やしていた