新聞を読み終えて
テーブルに置いたとき、静かに呼ばれる
「ご主人…」
「ん〜?」
目を合わせるが、何か問うような表情を浮かべたわけでもなく無表情を保つ顔
そのパーツのうちの小さな唇が動く…
「お昼はどうなさいますか?」
時計を見ると午前11時
出勤時間は当の昔に過ぎている
今日は新しいメイドが来るから遅れるよ_
とセンゴクには言づけているので心配はないが、さすがに昼の時間を過ぎてまで出てこないとなれば、叱られそうだ
クザンはフゥン_と鼻から息を吐いてメロに視線を戻す
「いや、昼はいらない、夜には帰ってくっから…そうだな、クリームシチューが食べたいね」
「かしこまりました」
メロの返事を聞いて重い腰を上げて、行ってきます_と特に何の準備をすることもなく仕事へ向かった
クザンを玄関まで見送り
一人残されたメロは掃除、洗濯、自分の昼食をとり、買い物へ行き、また掃除をする
外が薄暗くなってきた頃
風呂をためて、夕食の準備を始める、手作りのロールパンに、海鮮クリームシチュー、そしてサラダ
_ご主人が帰るまでひと時の休憩…
部屋に戻るとテディーベアと目が合った
「……チッ…」
思わず舌打ちをしてしまったが、そのままテディーベアの座るベッドへ腰かける
ポテッ_と後ろに転んだテディーベアをもう一度隣に座らせて、改めて部屋中を見渡すが、何もかも見事に桜色
まさかと思いクローゼットや引き出しを開けてみると
やはり、下着も、パジャマも同系色で埋め尽くされていた
「………」
淡い桜色のピンクが自然と瞬きを多くさせた気がした_
ふと視線をテーブルへ向けると、メッセージカードがあることに気が付き手に取る
机と同じ色をしたカードに丁寧な文字が黒で書かれていた_
____メロ殿________
家具は気にいってくれたかな?
いつでも本部へ遊びに来なさい
______センゴクより______
「・・・・・・・」
グシャッ____
ポイ____
特に顔色を変えるわけでもないが
メロはメッセージカードを当たり前のように握りつぶして、ピンクのゴミ箱へと捨てた
門の開く音がして、早歩きで玄関へと向かう
丁度玄関に立った時、ガチャッとドアが開いてクザンが帰宅した
「おかえりなさいませ」
「ただいま…いいよ、出迎えなんて」
「かしこまりました」
「……そんなにあっさり受け入れちゃうの?」
「はい…」
「…いやなわけでも、ないんだけどねぇ…」
中々玄関から中へ入ろうとしないクザン、主人の前を歩くわけにもいかず、メロは廊下の隅に立ってクザンを見返す
「…差支えないのであれば、明日からもこうさせてください」
「…じゃぁ、夜10時以降の帰りの時は出迎え禁止にしようね」
「…かしこまりました」
そう言ってメロの前を通り過ぎる
彼女に気を使って言ったつもりだったが、かえって気を使わせてしまったようだ…
今までのメイドといえばズーッと、笑顔しか知らないような奴ばかりだったのに
今朝から変わらないメロの表情_
(何考えてんだかサッパリだわ…)
「ご主人、お食事にいたしますか?ご入浴にされますか?」
「…一緒に入ろうか」
「はい」
「…;冗談、風呂いくね〜」
「ごゆっくり」
パタッ_と閉じたドアの向こうで
クザンは、参った_と頭をかいた
即答で返事をされるとも思わなかったし、眉一つ動かさないメロの表情
(あの時の笑顔は、幻だったのか…?)
あの無表情をもう一度、崩してみたいとすらも思ったが、こちらが先に墓穴を掘ってしまいそうだ