メイド
□ご主人はサカズキ様
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日もまだ昇らない早朝
メロは目を覚まし、サカズキの家へ向かう準備を始めていた
クローゼットから取り出した長方形の箱を机へ置き開く_
和装を心がけている_
とサカズキのメイドは話していたので、あのクローゼットになら必ずあると確信していた
着物だ___
やはりそれも桜色の淡いピンクで
所々に濃いピンクと白で桜の花びらが足元の裾から舞い上がっているような柄をさせている
中々の柄模様に、メロはこれに関してだけは
センゴク元帥へ礼を述べたくなるほどだった
厚めの生地を指で一度なぞり、取り出した
まるでそれを羽織ることが日課としているかのように
慣れた手つきで着こなしてゆく
ものの数分で着物姿に変身し、最後に前掛けを腰へ巻き付ける
全身鏡で確認もせず
化粧鏡の前へ立つ
鏡の前にはコレでもかと言うほどの化粧品が並べられている
初めてそれに目を凝らして手を伸ばす_
掴んだのは赤に近いオレンジの口紅
それを唇へ薄く塗り
上唇と下唇を擦り合わせ
口紅の蓋を閉め、手荷物へと入れる_
髪をヘアブラシですき上げて
丁寧に巻き上げ_
片手でそれを抑えて
化粧台の右の引き戸を開け
控えめな桜の飾りの付いたかんざしを手に取る
折れにくそうな二本軸のかんざしを、押さえている髪の部分へ差し込む
数分もかからないうちにシンプルな夜会巻きが完成された
仕上げにとワックスを少量手になじませて
髪を撫でるようにし
その後コームでとかし固める_
____________
時間は4時・・・
サカズキの所へ向かうには
まだ40分ほどの余裕がある_
リビングへ出て、そのままキッチンへと一直線に向かい
帯に挟んでおいた紐を引っ張りだして
邪魔な袖が落ちてこない様にと
引っ張り出した紐の片側付近を口へ銜え
シュルシュル_と紐を器用に両肩を軸にし
背後で交差させる
銜えた端紐をもう片方の端と右肩辺りでキュッ_と軽く縛る
みごとにたすきがけ≠素早く行う
メロは冷蔵庫から
夜のうちに用意していたパン生地と切っておいた野菜を取り出し、料理を始めた
出来上がったポトフに蓋をして焼きあがったパンを取り出し上に渇いた布を被せておく…
二人分の料理だが今日これを食べるのはクザンとメロではない、別のメイドだ_
後10分…
メロはたすきがけを外し、紐をまた帯の間へと挟んで
浅く息を吐く_
ガチャッ_
「…ん……?」
扉の開く音と、クザンの声がし、そちらへと向かう
「…おはようございます
…起こしてしまいましたか?」
「早いね…あぁ、赤犬__の______え… 」
キッチンから現れた着物姿のメロ
自分の意思とは無関係に
先ほどまで重く伸し掛かっていた瞼が大きく開いてゆく
瞬き一つせずに、息を吞んだ…
「っ…………」
一礼して暫くいつもの表情で見つめるメロ
「…ご主人?」
「あ…あぁ…
うん…・・・
メロちゃんさ…
その格好で行くの?」
ようやくいつもの調子を取り戻しつつある、クザンはメロの着物を指さし言う
メロは少し両手を広げて無表情のまま
コクリ_
と頷き、色づかせた赤の口を動かす…
「はい
あちらのメイド服は和装だとお聞きしましたので…」
「へぇー…そうなの……」
白い肌に艶々した唇_
綺麗に整えた髪
華奢な体を包む幾層の布…
それを乱してやりたいと思うのが男の心理で
クザンもまた、ゲスな考えを頭の中で巡らせていた
「では
時間なのでサカズキ様のお屋敷へ向かわせていただきます」
メロの言葉に我に返り
一度顔を引き締めなおし
笑みを零す_
「よろしくね
メロちゃん_ 」
一礼して横を通り過ぎるメロを名残惜しそうに目で追いかける
「っ…メロちゃん?」
リビングのドアを開けようとするその背中に思わず声をかけた
メロはドアノブから手を放し振り返る
また交わる視線___
「もし、嫌なことがあれば帰ってきていいから
すぐにでも_ 」
「……承知いたしました」