メイド

□メイドがワカラナイ
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何時間たっただろうか

港からの風景は特に代わり映えもなく、太陽の位置が少しずれたくらいだろう


昨夜の眠りが少なかったせいか睡魔が繰り返し聞こえる波の音と共に襲ってくる

瞼が重い...

先ほどまで一緒だった海兵達も仕事があるのだろう一人、また一人と職務に戻っていってしまい、最後には私と一人の海兵だけになってしまった

会話は弾むはずもなく、ベンチに並んで座ってボーっと水平線を眺める




「もうそろそろ戻られると思うのですが...」

沈黙の中、右隣に座るクザン大将のメイドへと視線を向けようとしたが、右肩にトン_と心地よい重みが寄り添った

甘い女性の香りに心臓が奥の方で高鳴る

綺麗な瞳が閉じられ、長いまつ毛が下を向きスヤスヤと寝息を立てている

なんて美しい人なのだろう...

彼女の視線がないのをいい事に、海兵は彼女の寝顔をまじまじと見つめ頬を赤らめた












「で...そこから何する気?」






ゾクリ_と背筋を凍らせるような低い声が耳に入り、一瞬にして血の気が引いてゆく


その声のする方に恐る恐ると振り向こうとしたが、声の主は肩に寄り添った彼女を優しく抱き上げた

まるで、壊れかけの大切なガラス細工を抱きかかえるかのようにして、腕に収まった彼女を愛おしむ瞳で見つめる


「くっクザン大将!お待ちしておりました!」


「あぁ、うん...ご苦労さん...この傷は何?」


大将は彼女を抱えたままベンチへ腰を下ろし右膝に彼女を乗せ、彼女の背中を右手で支える

両腕についた傷を空いた左手でそっとなぞると腕の中の彼女がヒクリと肩をすくめたが、目を覚ます気配はない


「お聞きしたところ、あの...えぇと...クザン大将に...縛られたと...」


「...ふぅん...俺そんなことした?メロちゃん」


寝息を立てる彼女に問いかけたとしても返事など返ってこないだろう...

そう思い眉を顰める海兵

だが、長いまつ毛がゆっくりと上に動いて、彼女の瞳がクザン大将を見上げる

その表情には申し訳ないだの不安だのと言う感情は込められておらず、無表情であった


「...お忘れですか?」


「あのねぇ...心配したのに...誰に何されたの?怒らないから話してごらん」


「......申し訳ありません...今は...」


彼女の瞳が海兵に向けられた

クザン以外には聞かれたくない...


「っ!で、では、私はこれで失礼します!」

なかなか空気の読める海兵のようで、メロの視線に気が付きすぐさまその場を離れてくれた


先ほどまで変わり映えのない青い空と青い海だったのに、いつの間にか空に浮かぶ雲がオレンジの光を受け、空は夕焼けに変わっていた


少し肌寒さの感じる潮風に体を縮めるとクザンが大将と書かれた軍服を私の体にかけてくれた


去っていった海兵の背中が見えなくなると彼女の瞳が俺を見上げる...


「無事でよかった...」


腕の中のメロを壊さないようにしっかりと抱きしめる...


彼女に何かがあれば、俺は...


もうきっと生きてゆけない_____


そう思うほどに不安だった気持ちが腕の中のぬくもりで徐々に和らいでゆく...


「...昔の知人に会いました...」

彼女の言葉に、思い浮かんだのは、昔彼女を痛めつけた主人...


彼女の陶器のような背中に痛々しい傷をつけた憎い相手...



「まさか...」


「...前の主人を刺した日...死のうとした私を引き留めて下さった方です、その方が海賊船から私を救って下さいました」


「...それで、その人は?」


彼女の瞳が、昔を思い出している...


彼は私を二度救って下さいました_


その“彼”に、俺は嫉妬心が浮上するのを堪える...


彼女を抱きしめる腕が、知らずに力を増す...


「もうハクバ様は島にはいません...」


「...ハクバ...?」


「はい、私の恩人です」


ご主人の瞳が私の心を読もうとしている...


恩人に縛られたのか?

本当にそれは恩人なのか...?










「...そう...今度会ったら礼を言わないとね」



















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