メイド
□ご主人の記憶
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「今日から二日間は外出禁止、買い物は俺が適当にするし
必要なモノはその都度言ってくれりゃいいから」
「...」
家に帰ると早速、無表情なメイドにご主人様の特権と言わんばかりに命令をするクザン
時刻は夜の22時で、メイドの彼女も既に仕事を終えており
リビングのソファーに座ったままピンクのヒヨコパジャマで出迎えてくれた
「たったの二日だけだからね...」
「ご主人、心配なさらないで下さい」
その無表情で愛らしい顔が不安を増幅させているということを彼女はわかっていないのだろう
クザンは溜息交じりに苦笑いを零した
「心配なんかしてないよ...」
今君は、俺の手の届く場所にいるんだから...
何も心配なんかしてないさ...
俺を見つめる彼女の華奢な腕を掴んで引き寄せる、抵抗のない身体はすっぽりと両腕に収まって、居心地良さそうに彼女の腕が俺の腰あたりの服を掴む...
クザンは彼女の頭部を見下ろしながら、僅かに抱きしめる力を強めた
『背中の傷を負わされた日_
気が付いたんです...
彼をこうしたのは私で...
もう...
逃げたいと......』
その言葉はもう何度も俺の頭の中で再生された言葉だった...
彼女が怯えながら昔の話を俺に聞かせたあの日から、もうずっとだ___
耐え切れずに彼女を抱いて、話しを中断させたのは俺だったが、内心では今にも苛立ちの堰が切れるような思いだったのを覚えている
彼女の背中の傷を_
彼女がなにかの影におびえたのを見るたびにそのやり場のない思いが全身に込み上げる...
『私も彼女がメイドを辞めた経緯は知っている、お前ももう知っているんだろう?』
次に再生されたのは上司であるセンゴクの言葉だった
やはりセンゴクさんには敵わない_
そう思いながらクザンは僅かだがメロに対して申し訳ないような気持ちを覚えた
彼女は一言も俺に言っていない...
前主人をその手にかけたことを_
きっと聞かなければ彼女は永遠に話してはくれない気がした
俺は彼女の過去を無断で探り、彼女の身に起きた事を細かく調べた...
それがメロにとって正解なのか、正義なのかなど分からなかった...
俺が正解だと思い、正義だと思ったから勝手にしたことで
それなのに今更後ろめたいような気持ちが胸をざわつかせる
どこかで俺は、彼女から絶対の信頼を置かれていると自信を持っていたから...
だが、それも昨日までの事だ...
『彼を殺すというのなら、私も死にます!!!』
彼女の必死ともいえる叫びが再生され哀れな気分になり
どれほど自分が思い上がっていたかを思い知らされた
「ご主人...」
いつの間にかこちらを見上げていたメロと視線がぶつかり、今まで自分がぼんやりと
どんな表情を浮かべていたのか
分からないが咄嗟に笑みを浮かべて見せた
彼女の表情はと言えば氷のような無表情で
それでも...
心配してくれているような気がしてクザンはメロを抱き上げてその頬に口づけた
「メロ...」
ご主人に“メロちゃん”と呼ばれるのが今までの当たり前だったが
掠れた官能的な声で、ご主人は私の名を呼び、首元に顔を埋めるようにしながらキスを落としてゆく
ご主人の全てをこの肌に、耳に、唇に、目に...
何もかもに焼き付ける様にして彼に縋る
ゴメンナサイ_______
心の奥底でそう言いながら