君は何を想う? 完結

□君は何を想う? 第十一章  12 完結
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「は?」
土曜日の朝。
無駄に広い、哲の家。


もう十時とはいえ起きているか分からなかったから、一度携帯に連絡したら。

家の中から転げ落ちるんじゃないかっていう程の、大きな音が聞こえてきた。

開いた玄関の向こうには、ぼさぼさの髪の毛とTシャツに短パン……よーするに起き抜けの哲の姿。

慌てたからか、玄関に素足のまま下りている。




「おはよ、凄い格好ねぇ……」




思わず噴出しながら、その姿を呆れた顔で見る。
哲ファンの皆様に、見せて差し上げたい。


「おはよ……、ってそーじゃなくてっ」

私の言葉につられるように挨拶を口にした哲は、一瞬にして我に返ったらしく大きな声を上げた。

そんな哲を見上げながら、お小言になりそうだと早々に話を止める。
私に対して、昔っから口うるさいんだもん。

「まぁまぁ、とりあえず入れてくんない? 寒いんだけど……」


哲は何か言いたそうな口を溜息と共に閉じて、半身を斜めに下げて私を家の中に促すと、玄関のドアを閉めた。
携帯を操作しながら、私の後をついてくる。

「携帯見ながら歩くと、転ぶよー」
「自分ちで、そんなへまするか。お前じゃあるまいし」


メールなのかなんなのか、打ち終えるとそれをズボンのポケットに放り込んだ。


「しょうがねーだろ、お前から電話きた時、丁度メール打ってたんだから」
「それは、お邪魔様でしたね」

憎まれ口を叩きながら、リビングに入る。

「――汚い」

目の前に広がったリビングの惨状に、思わず呟いた。
立ち止まった私の横をすり抜けてキッチンに向かった哲は、電気ケトルに水を入れながら、そーか? と間の抜けた声を返してくる。

……そーかじゃないよ――

あれだけ片付けたのに。
がっくりと肩を下ろして、溜息をつく。

物が散乱しているというより、なんか薄汚れてる。
つい、お義母さまちっくな感じでローテーブルの上を指でなぞってみたら。
字が書けそうなくらい、埃が積もってましてよ哲弘さん!!

「美咲、お前おばさんくさい」
埃のついた指をじっと見ていた私に呆れた声を掛けながら、紅茶の注がれたマグカップをその埃だらけのローテーブルに置いた。

そのままソファに腰を下ろす哲を見ながら、諦めの境地で向かいのソファに座る。


う……、このソファからも埃が舞い上がっていそう……
なんか、陽の光にキラキラと何かが……


思わず見ない振りを決め込む。



おばさんがいない事は今まで何回もあったけれど、私その間にここに来たことなかったからなぁ。
これじゃ、この家残すの嫌がるわ。
掃除、全然してないよ……きっと。


嫌そうな表情の私を無視しながら、哲はマグカップを片手で掴みあげながら口を開いた。

「んで? この貴重なお休みの朝っぱらから、お前、俺に何の用?」
「……もう、十時ですけど。哲弘くん」

言い返しながらも、がばっと頭を下げた。



「哲、いろいろと心配かけてごめんなさい」

「は? 美咲?」



テーブルの向こうで、マグカップを置く音が聞こえる。
それを耳にしながら、言葉を続けた。

「それに、いろいろと迷惑掛けて。その……」
「あぁ、課長に聞いた?」

言いにくい言葉に口籠ったら、あっさりと哲が言ってくれた。
頭を上げて、哲を見る。
「その、ごめん。私、自分のことしか考えてなかった」
「……課長と、上手くいったんだな。その様子だと」
私の謝罪を聞かない振りなのかそれに対して何も答えず、前で腕を組んだままソファの背もたれに寄りかかった。



上手く……上手く……


“俺と、結婚してくれ”



「うっ……」

一番思い出しちゃいけない言葉が脳裏に浮かんで、頬が熱くなっていく。

「えっと、その。だから……」

ごまかそうとすればするほど、焦って意味の分からない言葉が口を出る。
そんなことをやっていたら、目の前の哲が小さく笑い声を漏らした。

「何、照れてんだよ。面白い奴」

頭に触れる、手のひらの感触。
「……」
哲の、匂い。
やっぱり、安心する。
やらないけど、思わず顔を擦り寄せたくなる。
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