君は何を想う? 完結

□君は何を想う? 第八章〜九章
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「初めて企画課で年末やりますけど、結構忙しいもんですね」


美咲と間宮さんを企画室に残してラウンジで課長と斉藤さんと珈琲を飲みながら、俺は溜息を付いた。





「営業の時も挨拶回りとかで忙しかったけど、企画課ってそういうのがない分ここまで忙しいとは思わなかったですよ」

他社との忘年会や納会がないだけましだけど。

前に座った課長が珈琲を飲みながら、まぁな、と呟く。

「他社の飲み会に参加させられる理不尽さは、最悪だったな。営業に必要といわれても正直面倒だった」




その言葉に、思わず瞬きを繰り返す。


「え、課長って……まさか営業出身ですか?」

「まさかってなんだ。俺は、四年目からこっちに異動したんだ」




うーわー、しんじらんねぇ!

この無表情が、どんな営業を?




あからさまに驚いた顔をした俺に、斉藤さんが頷きながら共感してくれた。



「俺も、まさか課長が営業にいるとは思わなかったもんなぁ。入社したとき驚いた」

「そうか?」

「そうですよ」



首を傾げて理由を探す課長を見ながら、斉藤さんと苦笑い。


「どうやって、営業やってたんですか? 想像付きませんけど」

「どうやってって……、いたって普通に」





ないない、普通に営業できないから! あんたじゃ




「斉藤さんは? どこ出身なんですか?」

窓の外を見ながら笑っていた斉藤さんは、商品管理課、と告げた。

「久我と一緒だよ。久我と入れ違いにこっちに来たから、

あいつとは仕事したことないけど。あぁ、でも課では可愛がられてたみたいだなぁ」

「そうなんですか?」



あまり商品管理課時代の美咲の話って聞いたことないから、少し前に乗り出す。

すると、珈琲の紙コップを持っていた課長もそれをテーブルに戻して、斉藤さんの方に視線を向けた。



「あそこの主任、俺の同期なんだけど、久我の直属上司だったんだよ」


面白そうに笑いながら斉藤さんの話す、美咲の昔話に耳を傾ける。





あの頃、俺は営業で。

俺が三階、美咲が四階にいて。

たまに遊びに行っては、おちょくって帰ってた。




ある時、聞かれた、言葉。

{ねぇ哲、管理課に来るの多くない?}

言われて、一瞬頭から血の気が引いた。

嫌がられてる……?




恐る恐る美咲を見ると、彼女はそんな俺を見ながらくすくすと笑う。

{瑞貴さんと付き合ってるんですか? っていう質問多くて、面倒だわ}


面倒、か……


少し、胸をなでおろす。

{幼馴染です、悪いか? って名札でもぶら下げて行ってやろうか?}

ふざけて応えると、美咲は大笑いしながら背中を叩いた。






あたりまえじゃねーか、牽制しに行ってんだよ。


美咲に会うため、牽制するため。

俺が美咲を気にいってるんだって言うのを、男にも女にも分からせたかった。







「――久我らしいな」

斉藤さんの話を聞きながら、課長が口元を少し緩ませる。

昔の記憶をたどっていた俺は、その変化に眼を奪われた。



ほとんど、無表情で一日が終わる課長。

喜怒哀楽を何処かに投げ捨ててきたんじゃないかって、ホント心配になるほど。





でも――



かすかに笑んだその姿を見て、内心、納得する。



納得して、そして募る、焦燥感。



営業、確かに、そうかもしれない。


課長は、営業部にいたわけだ。


あそこにいると、色々な事が学べるけれど。


隠すのが、得意になるよな。







――感情



本心



真実





相手に悟らせないように、相手に弱点を見せないように。


感情を隠すその無表情は、課長の防御なのかもしれない。


ホントは笑顔のほうがいいと思うけど。

真面目・実直、これが課長の武器なんだろ。





無表情という防御を。
それを崩す、美咲の存在は。

あなたの中で、どれだけ大きいのか、実感させられますよ……
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