幾千通りの扉
□雀のつづら
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ニブル山にある一つの家がありました。
そこにはヴィンセントという若者が住んでいました。
一人で普通に生活していた彼にある出来事が訪れます。
「うわっ!!?」
女の子の驚く声が聞こえて、ヴィンセントは何事かと思い、外に出て見ました。
辺りを見回してみますが、何も見つかりません。
すると―――
「誰かいる〜!?」
割と近くで響くような声がしました。
声がする方に行って見ると、大きめの穴が地面にあいていました。
「・・・大丈夫か?」
顔を覗かせてみれば、穴の中に白い着物を着た少女がいました。
少女の顔は不安に満ちていましたが、ヴィンセントが顔を覗かせたことによって、それはすぐに笑顔に変わりました。
「ちょっと助けて!落ちた時に足を悪くしたみたいで痛くて立てないの」
「・・・では、手を・・・」
ヴィンセントが手を伸ばすと、少女はすぐにそれに掴まった。
そして、ヴィンセントは軽々と少女を引き上げました。
「ふぅ〜、助かった〜。ダメかと思ったよ〜」
「・・・足を見せてみろ」
「うん」
見せると言っても、見えてしまう。
少女が着ている着物は、裾が短い。
少し危ない線にいるが見ないようにする。
痛めた足を見れば―――少し赤く腫れていた。
「・・・これは冷やさないとダメだな。君は・・・雀の里・ウータイから来たのか?」
「うん、よくわかったね」
「・・・その姿を見ればな」
少女の着ている着物は、雀の里・ウータイの民族衣装である。
そして、特徴的な黒髪に黒い瞳。
それらは、雀の里の者であることを示していた。
「・・・名前は?」
「ユフィ=キサラギ。ユフィって呼んで?」
「・・・キサラギ家の一人娘か」
キサラギ家の一人娘の噂は聞くことがある。
何でもやんちゃでお転婆で少年のように活発らしいが、里の者や外の人間や種族との関係がいいらしく、好かれているらしい。
中には恋心を抱く者もいると聞くが・・・あながち嘘ではないらしい。
ヴィンセントは噂で聞くだけで本人を見たことがなかった。
しかし、今その本人を改めて見て、噂通りでもあるし、そうでないようにも感じた。
「・・・門限は何時までだ?」
「六時くらいかな〜?あんまり遅いと親父とか五月蝿いからさ」
まぁ、それも無理はない。
ヴィンセントはユフィを抱き上げて、家の中に入れた。