幾千通りの扉

□シンデレラ
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いつもだったら窓の向こうをぼんやりと眺めたり城を抜け出して武芸に励んだりしている。
けれど今日は違う。
上品に椅子に座って目的の人物を待つ。
今回の人物はかなり期待出来ると兵士から報告を受けているだけに期待は大きい。

しばらく静かに待っていると、やがて足音が聞こえてきた。
落ち着いた足取りで、慌てた様子は感じられない。かなり余裕なのだろう。
もうしばらく待ってみるとドアノブが動き、扉が開かれた。
そしてそこから現れた人物に姫―――ユフィは挑戦的な笑みを浮かべる。

「ノックくらいしたら?一応、お姫様の部屋なんだけど」

「悪いな、ここにもトラップがあると思って警戒してたものでな」

男―――ヴィンセント・ヴァレンタインは苦笑いをした。
この男は王子だったりする。
自国で開いた舞踏会でユフィと知り合い、そして惹かれたのだ。

「探すのに苦労した。痕跡も手がかりもほとんどなかったからな」
「すぐ見つけられたらつまんないじゃん」
「だったらその代わりとして城の警備を緩くしてくれたらどうだ?こっちもこっちで苦労したんだが」
「そう言う割には全然へっちゃらそうに見えるけど?この分だとケルベロスもクリアしちゃった系?」
「あの三つ首の犬か?かなりのやんちゃで手懐けるのが大変だった」
「躾けはちゃんとしてあるんだけどアタシにしか懐かないからね〜。そりゃ無理もないか」

ユフィは自嘲気味な笑みを浮かべながら肩を竦めた。
その様子にヴィンセントも連られて笑みを浮かべる。
しかし、話はここまでと言わんばかりにヴィンセントは咳払いをしてユフィの目を真っ直ぐ見つめた。

「さて、ここまで頑張ったのだ。褒美は貰えるのだろうな?」
「そこも課題だったり」
「手強いな・・・」

疲れたように息を吐いてヴィンセントはユフィの前に片膝を付く。
そしてユフィの右手を取り、見上げる。

「・・・私で何人目だ?」
「え?」
「ここに来たのは私で何人目だ?」
「ううん、アンタが初めて」
「それは光栄な事だ」

ヴィンセントは不敵に笑い、ユフィの手の甲にキスを一つ落とした。
初めての事だっただけにユフィの胸の鼓動は高鳴る。

「私と共に来てくれるだろうか?」
「喜んで」



こうして王子はシンデレラを勝ち取ったのだった。










END






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