伝記

□婿候補の2
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港前カフェ。
ウータイ行きの船が出発するギリギリまでユフィとヴィンセントはカフェでお茶をしていた。
というのも、ユフィが少しでも船に乗るまでの時間を引き伸ばしたいと懇願したからだ。
船酔いの酷いユフィの事を思うと同情は禁じえず、カフェで時間を潰す事にしたのだ。

「ホントにありがとねーヴィンセント。欲しいお酒とか食べたい物があったら何でも用意するよ」
「焼酎が飲みたいな、あと天ぷら」
「お、中々作りごたえのあるもん注文してくるな〜。いいよ、作ってあげる!酒は実家の蔵から取ってくるよ」
「ゴドー殿の酒じゃないのか?」
「うん、そうだけど別にいいでしょ。親父はそっちよりも梅酒が大好物だし」
「梅酒か・・・」
「飲みたかったら買うけど?」
「ああ、頼む」

「りょーかい!」と元気に笑ってユフィはエプロンを着けた猫がプリントされているメモに梅酒を書いた。
他にも天ぷらに必要な材料や主食の米なども書きこんでいく。
そんなユフィを眺めつつヴィンセントは何気なく質問した。

「ところで、お前の婿にと名乗りでた男たちはどんな奴らだ?」
「んー?」

ユフィはメモの内容を確認してシャーペンを置くと頬杖をついて窓の外を見ながら答えた。

「えーっと、確か一人目はアイシクル出身の金持ちのボンボン。
 ウータイに旅行に来た時にたまたまアタシを見かけて一目惚れしたんだって」
「それでいきなり婿になりたいと?」
「そ。一目惚れとかは嬉しいけどなんかいきなり過ぎるよね。ちょっと説得力ないってかさ。
 そんで二人目はジュノンにでっかいビルを構える企業の社長。
 ウータイに滞在してた事があるらしくて、ウータイの自然とか人柄が好きになったとかで一緒にウータイを良くしようってさ。
 ―――親父が言うにはウータイと取引したくて最近うるいらしいけど」
「本音はそっちだな」
「今更驚かないけどね」

ユフィはうんざりといった様子で肩をすくめて溜息を吐いた。
言葉から察するに、そうした仕事の利益目的で結婚を申し込んできた者も少なくなかったのだろう。
そう思うとウータイにおけるユフィの立場がどれだけ大きく、見方によっては利用しやすいものかが伺い知れた。
ウータイは小国であれど国は国。
ユフィの夫というポジションに立ってそれを上手く利用すれば多大な利益を得られる筈だ。
例えば商品の輸出入であれば自分の会社が有利に働くように仕組む事が出来る。
他にもウータイを繁栄させる為と銘打ってビジネスに利用する事も出来る。
しかし出来るとは言ってもユフィを始めとするウータイの国民が納得するかどうかは別だ。
彼らが反対すればそれは容易にいく事はないだろう。
仮に次期統率者であるユフィが国民に向けて説得をするならば反対意見もなくなるかもしれないが、そもそものユフィを説得するのが至難の業だ。
ユフィは誰よりもウータイを愛している。
ウータイを盛り上げる為ならば何でもするが、だからと言っていいように利用される程馬鹿ではない。
本気でウータイの未来を共に考えてくれる者であるかどうかを見抜いている筈だ。
でなければこんなうんざりしたようなセリフを吐いたりはしない。

「それで三人目は?」
「・・・アタシの従兄弟」
「従兄弟?」
「そ。全然話した事もないし会った事もないけどね」

ユフィは先程までのうんざりした表情から複雑な表情へと顔を変えた。
ブラックコーヒーを一口飲んでからヴィンセントは内容の続きを聞いた。

「親戚とは中が悪いのか?」
「・・・親戚はさ―――ミナヅキって言うんだけど――ー母さんがその家の出身なんだ。
 そんでミナヅキ家は昔からウータイの海を守ってる家なんだけど、よく分かんないけどキサラギ家をライバル視しててサ。
 キサラギ家よりも大きくて強い家を目指す為に他所の権力者とかを婿養子や嫁として連れて来てたんだよ。
 所謂政略結婚ってやつ?母さんもさせられそうになったけど嫌気が差して家出したんだって。
 そんでモンスターにやられそうになった所を親父に助けられてお互いに恋に落ちてめでたく結婚。
 狙ってやった訳じゃないけどライバルの家に嫁ぐという盛大な当て付けに母さんの母さん―――婆さんがブチ切れて勘当したの。
 そんでそれ以来個人的な付き合いはなくなって疎遠状態になったって訳。
 勿論、国を守護する家としての付き合いはあるけどそれ以外は一切付き合いはないんだ」
「色々複雑だな。だが、個人的な付き合いを断ち切ってきていた家が縁談を持ち込むとは何かありそうだな」
「やっぱそう思う?」
「ウータイの統率者の座を狙ってるんじゃないか?」
「んー、それはないと思うんだよなぁ。ライバル視しているとはいえ、
 あくまでもウータイを統率するのはキサラギ家って認めてるみたいだしさぁ」
「それは今でもか?」
「らしいよ。叔母さん―――母さんの妹さんが言ってた」
「?一切付き合いはないんじゃないったのか?」
「叔母さんとはこっそり会ってんの。つってもたま〜にだけどね。
 本当は息子とも会わせたいらしいけど、流石に婆さんに気付かれちゃうって。でも叔母さん、すっごくいい人なんだよ。 
 アタシの事気にかけてくれてるし、今回の見合いも息子の事は振ってくれて構わないって言ってくれたし」
「それは良かったな」

「ホントにね〜」と満更でもなさそうに言ってユフィはストロベリーパフェの苺をぱくっと食べた。
苺の甘酸っぱさに「ん〜!」と美味しそうに唸るその姿は幼く見えるも可愛らしい。
数回噛んで苺を飲み下すとユフィは四人目の婿について語り始めた。
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