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□笑えばいい
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「アタシ、結婚するんだ」

自分の時が一瞬にして止まった。

「ずっと前から好きだったんだけど実は両想いって判ってね―――」

ユフィは何かを話しているがヴィンセントの耳には全く入ってこなかった。
いや、入れたくなかった。
そんな言葉は聞きたくない。

「アタシ、幸せになるからヴィンセントも幸せになってね」


お前とじゃないと幸せになれない。


と、言いたかったが声が出なかった。
そうこうしている内にユフィはどんどん遠ざかっていく。


嫌だ、行かないでくれ。
お前がいなければ私は―――














「起きろー!!」

突然の大声にガバッと起き上がる。
慌てて周りを見回すと、見慣れた部屋の風景とユフィがいた。

「ユフィ・・・?」
「ん?何?」

幻ではないと確かめる為にユフィの腕を掴んで引き寄せる。
驚くユフィを無視して強く抱きしめる。
確かな柔らかさと感覚、そして匂い。
それらはヴィンセントをひどく安心させた。

「ど、どーしたの?」
「・・・夢を見た」
「どんな夢?」
「・・・ユフィが他の男と結婚すると報告する夢だ」
「アタシが!?ヴィンセント以外の男と!?」

すると、ユフィはけらけらと笑い始めた。
それすらヴィンセントの心に安心をもたらす。

「ヴィンセント以外の男と結婚する訳ないじゃん。
 ヴィンセントを知ったら他の男なんて全然興味ないよ」
「本当だな?」
「嘘ついてどーすんのさ?それに、棺桶なんかで寝てるからそんな夢見るんだよ!」

言い忘れていたが、実はヴィンセントは棺桶で寝ていたのだ。

「何で棺桶で寝てたんだよ?」
「久しぶりに寝てみようかと思ったんだ」
「よく抵抗なかったね」
「最初はあった。だが、罪を償う為に寝るのではないと思うと面白半分になれた」
「あ、ちゃんと吹っ切れてたんだ」
「ああ」

ユフィの頭を撫でながら柔らかそうな唇に自分のそれを重ねる。
不意打ちのキスにユフィは一瞬驚いて体がビクッと揺れた。
そしてすぐに離れたヴィンセントを照れ隠しに睨む。

「ふ、不意打ちは卑怯だぞ!」

しかし頬を赤く染めていては説得力はない。
むすろ、これからもどんどん不意打ちをしようという気になる。
それはさておき、ヴィンセントはユフィの唇を指でなぞりながら尋ねた。

「次、また同じ夢を見たら私は夢の中のユフィを祝福するべきか?」
「しなくていいよ。むしろ笑っちゃえ。ヴィンセントがいるのに勿体ないって」
「ああ、わかった」

ヴィンセントは小さく笑って、もう一度ユフィを強く抱きしめた。




また同じ夢を見たら笑ってやろう。

そして、夢の中のユフィすら手に入れよう。










END

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