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□大切なものは?
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つい最近まで世は戦国時代だった。
多くの国が台頭しては争い、天下の取り合いをしていた。
しかし時は流れ、とうとう神羅家率いる西軍とストライフ家率いる東軍の大合戦となった。
この二軍による天下分け目のコレルヶ原の戦いの結果はストライフ家の勝利に終わった。
この戦いはとても激しかったもので、後世に語り継がれるだろう。

「なのにヴァレンタイン家はストライフ家に加勢しただけで終わるのかよ」

縁側で足を放り投げてくのいち―――ユフィは不満そうにぼやく。
雲一つない快晴の青空に対してユフィの心は曇り空だった。

「だったら今ここで反旗を翻してあっけなく終わったと語り継がれたいか?」

部屋で座布団に座りながら書物を読んでいたヴァレンタイン家当主―――ヴィンセントが苦笑を漏らしながら尋ねた。
それに対してユフィは更に不満を漏らす。

「そんな悲惨な最後を望んでるんじゃないっつの。それに仲間に刃を向けられる訳ないじゃん」
「ならば何が望みだ?」
「アタシはもっと殿に活躍してほしかったの!
 そしたら『大活躍のヴァレンタイン家。そしてそれを影で支えた美しき忍び』って語り継がれるのにさ」
「要はお前が語り継がれたいだけだろう?安心しろ、お前の事についてはヴァレンタイン家が責任もって記録している」
「それは嬉しいけどアタシはもっと他の人にも記録してほしいんだよ!」
「忍びの意味がなくなるぞ」
「そうだけどさぁ・・・」

なんとも焦れったい想いが頭の中をぐるぐる回る。
それを振り払うようにユフィは溜め息をついた。

「あ〜あ、クラウドは天下統一を果たした大将軍、ティファはそのクラウドを内助の功で支えた良妻賢母。
 デンゼルは次代将軍候補でマリンはその許嫁。バリバリ書物に記されるね」
「・・・」
「それに比べて殿はアタシにほとんど情報収集させるだけでそれをクラウドたちに提供するだけ」
「ちゃんと戦っただろう?」
「一際目立つ程の戦果は挙げてないじゃん」
「西軍の武将が寝返ったり中立的な立場を取ったりしたからそうそうに挙げられないと思うが」
「む〜・・・」

ことごとく反論してくるヴィンセントにユフィは頬を膨らませた。
そんなユフィが可愛らしくて思わず笑みが零れる。
その顔をもっと近くで見ようとヴィンセントはユフィの隣に歩み寄って座った。

「書物に記されるのは何も戦果だけではない。文芸を極めればそれはそれで書物に残る」
「でも殿は極める気ないでしょ?」
「面倒だからな」
「はぁ〜あ、親父もなんでこんなやる気のない殿に仕えるように言ったかね〜」
「そんなに不満か?」
「だってアタシ、殿の為に頑張って修行して忍術磨いてきたのに全然役に立たなかったんだもん。
 出される任務って言ったら情報収集か越後屋と悪代官をとっちめるだけじゃん」

ユフィの不満はここにあった。
ヴィンセントの為に日々忍術を磨いてきたのに、そのヴィンセントは大して命令を下さなかった。
出されるとしても、ユフィが言った通り情報収集をするか越後屋や悪代官の悪事を暴いて奉行所の前に放置するだけ。
本当はヴィンセントを影で支え、天下への道のりを助ける筈がこうなってしまって不満でたまらないのだ。

「それはそれで悪い事をしたな。だがな、ユフィ。私にとって名声などはどうでもいい」
「じゃあ、殿にとっては何が大切なのさ?」
「私とって大切なのは己の領地と部下や民―――そしてお前だ」

真剣な顔をユフィに向けてヴィンセントは言った。
その真剣な顔と言葉にユフィは心を打たれ、ついついヴィンセントに魅入ってしまった。

「無駄に争い事を起こしたくはなかったし、何よりもお前が大切だからこそ暗殺などをさせなかったのだ。
 自分の名声の為に愛する者の手を汚させる事など私には出来ん」
「え、えっと・・・それって・・・」

遠回しの告白にユフィは戸惑いと動揺を隠せなかった。
構わずヴィンセントは続ける。

「だが乱世は終わった。天下はクラウドのものとなったし、最早名声にこだわる必要はない。
 だからユフィ、これからは忍びとして私を支えるのではなく、私の妻として私を支えてくれ」
「で、でもアタシは忍びで殿はヴァレンタイン家当主で・・・」
「そんなものはどうにでもなる。それよりもお前はどうなんだ?」

ヴィンセントに迫られ、ユフィはしどろもどろになりながらもはっきりと自分の想いを告げた。

「えっと・・・その・・・ふ、不束者ですが・・・宜しく・・・オネガイ、シマス・・・//」
「ありがとう、ユフィ」

ヴィンセントは柔らかく笑い、すっと立ち上がって言った。

「そうと決まったらこれからお忍びで城下に行くぞ」
「え?何で?」
「お前の着物を買いに行く為だ。あまり持っていないだろう?」
「う、うん」
「ならば尚更だ。私の妻に相応しい着物を探しに行く。出かける準備をしろ」
「うん・・・!」

ユフィは勢いよく立ち上がって出かける準備を始めた。
そして同時に、何故父親がヴィンセントに仕えるように言ったのか判った気がした。
名声や権力を求めるのではなく、平和や自分を求めたヴィンセントだからこそだろう。




戦国乱世の時代は終わりを告げたが、二人の平和で幸せな日々はこれから始まるのだった。









END

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