伝記

□木の葉隠れの陰日向
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昔々、海辺の近くにある村にヴィンセントという少年がいた。
ヴィンセントは父親と村から少し離れた所に暮らしており、貧乏ながらも日々平穏に過ごしていた。
しかし、ある日ヴィンセントの父親は病で死に、ヴィンセントは天涯孤独となった。
村の人たちに同情されながらもヴィンセントは労働をして毎日を生きた。
けれど寂しいものは寂しい。
例えば親子で夕飯の話をしているのを見かけた時や子どもたち同士で遊んでいるのを見かけた時などだ。

そんな寂しさを感じた時、ヴィンセントは決まって夜に浜辺を訪れていた。
家の割と近くにあり、満月で照らされて煌めく海の美しさがヴィンセントの心を癒す。
今日も今日とて浜辺で海を眺めて心を癒していたが、ふと人の気配を感じた。

「・・・誰だ?」

気配のした方に顔を向けて声を発する。
すると暗がりの中から白い着物を着た、ヴィンセントと同じくらいの年齢の少女が歩いて来た。

「やっほー」
「君は・・・?」
「アタシはユフィ。そっちは?」
「ヴィンセント。ユフィは村の子・・・ではないな?」
「うん」

随分あっさりとした答えに一瞬何と返せばいいか戸惑ったが、素直に質問する。

「じゃあ、どこから来たんだ?」
「神様の世界から」

ヴィンセントはすかさずユフィの額と自分の額の温度の差を確かめた。
どちらも常温である。

「熱は・・・ないみたいだ」
「当たり前だよ!・・・ってまぁ、すぐに信じる訳ないか」

言ってユフィはヴィンセントの隣に座って話し始めた。

「話しても信じてくれるかどうか判んないけど、この世の森羅万象を守護する神様の世界があるの。
 んで、アタシはこの海を守護する神様の娘なわけ」
「では、ユフィがこの海を守護する神の娘だとして、私に何の用だ?」
「遊ぼうと思って。いつも一人でいるし」
「こんな時間に遊ぼうだなんて大丈夫なのか?」
「全然へーき!あっちとこっちとじゃ時間の流れが違うから」

神様の世界特権、なんて思ったが口にはしなかった。
そして今度はユフィがヴィンセントに質問をした。

「ヴィンセントってどーして村と少し離れた所に住んでるの?別に嫌な事されてないでしょ?」
「村が、というよりも私たち自らが進んで離れてるんだ・・・迫害されるのが怖くて」
「迫害?」
「この眼が原因で・・・この村の前にいた村で迫害されたんだ」

言いながらヴィンセントは己の真紅の瞳を指で示す。
美しいその瞳に吸い込まれそうだと思いながらもユフィは疑問を口にした。

「何で?綺麗なのに」
「赤い眼は悪魔の眼の証で、災いを呼ぶと言われて迫害されたんだ。それでこの村に逃げて来た訳だ」
「そーなんだ、酷い話だね。でも、ここの村の人たちは迫害なんてしてこないでしょ?」
「それでも時折、私を気味悪く思っているのが判るんだ。他の村から逃げてきたってのも相まって」
「・・・そっか・・・」

なんと声をかけてやればいいのか判らず、ユフィは沈黙した。
けれどいつまでも暗いままでいる訳にもいかず、ユフィはすっと立ち上がって明るく言った。
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