伝記

□朝と夜は交わらない
1ページ/6ページ

次にヴィンセントが目覚めた時、眼前に広がったのはお花畑でも三途の川でもなく、見た事もない天井だった。

「・・・ここは?」

「あ、気が付いた?」

聞き慣れた声に視線を向けると、そこには安心したようにこちらを見下ろすユフィがいた。

「ユフィ・・・?私は・・・」
「その・・・刺されたんだよ。それでアタシが慌ててこっちの世界に連れて来たの」
「こっちの世界?―――ということは・・・」
「うん、神様の世界」

ユフィは苦笑した。
本当なのかと起き上がって確かめようとしたが、刺された部位がズキリと痛む。

「ぐっ・・・!」
「あー!動いちゃダメだよ!やっと塞がり始めてきたんだから」
「すまない。それより、もしかすると都の役人試験は・・・」
「・・・もう間に合わないかな?傷が深かったし出血量もちょっと多かったからしばらく寝てたんだよ」
「・・・そうか」

ヴィンセントは残念そうに項垂れた。
そんなヴィンセントをなんとか元気づけようとユフィは努めて明るく話した。

「で、でもさ!現世で役人になれなくてもこっちの神様世界で役人になればいいんじゃない?」
「こちらの世界で?」
「そ!こっちでもそういうのあるんだよ、100年に一回
 んで、役人以上の地位にさ・・・アタシの補佐兼護衛があるんだよね。それでさ・・・」
「それで?
「わ、判れよ〜!」

もどかしそうにユフィは顔を赤くしながら叫んだ。
遊び過ぎたと小さく反省しつつ、ヴィンセントは話をまとめる。

「つまり、その補佐兼護衛になれば色々安泰だという事だな?」
「まぁ、そんなとこ。部屋とか本とかは支給されるから安心して。
 人間がこっちの世界に来て役人とかになるのって珍しい事じゃないから、そーいう制度とかあんの」
「・・・そうか」

ツッコミスキルがあまりなかったが為にヴィンセントはツッコむ事が出来なかった。
だが、そんな事よりもある事が気になった。

「次の役人の試験はいつだ?」
「あと80年後くらい」
「・・・私は死んでるんじゃないか?寿命が尽きて」
「ああ、大丈夫。こっちの世界に来ると自動的に神様世界年齢に変換されるから」
「つまり、今の私は―――」
「2700歳」
「都合がよすぎないか?」
「気のせいだよ」

適当に流されながらも状況を呑みこむ事にした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ