伝記

□ありがちなネタ後編
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翌朝。
何となしに目覚めたユフィの寝ぼけ眼はヴィンセントの寝顔を捉えた。

(あ・・・ヴィンセント・・・・・・ヴィンセント!!?)

認識した瞬間、ユフィは慌てて顔を覆って布団に潜った。
頭の中で昨夜の記憶が蘇り、益々ユフィを焦らせる。
“記憶を失ったユフィ”からしてみれば初めての筈なのにまるで洗練されているかのようにヴィンセントの愛撫に対して体が敏感に反応した。
ディープキスの仕方だって知らない筈なのに自然と呼吸が出来て苦しくなかった。
挿入された時もまるでヴィンセントがそこに収まるのが当然のような感覚と心地がした。

(や、やっぱ男女の一線越えてたんだ・・・!どんな顔すりゃぁいいの〜!?)

こんな時に限って習性的なそれが働いてくれない。
世の中そんなものだ。

(と、とにかくどーしよ!?ヴィンセント起こす・・・なんて出来ないし何か―――)

布団から顔を出すと床にユフィの服の上に重なるようにしてヴィンセントの上着が脱ぎ捨てられているのを見つけた。
ユフィはほぼ無意識にヴィンセントの上着に手を伸ばし、顔を押し付けた。

(・・・ヴィンセントの匂い)

硝煙混じりのヴィンセントの服の匂いにユフィは心なしかホッとする。
そして何を思ったか、ユフィは起き上がってヴィンセントの上着を着てみる事にした。
サイズ的にもユフィにはぶかぶかで、お尻まで隠せる程の長さがあった。

「やっぱ大きいな〜」
「男物と女物では元々のサイズが違うからな」

突然、後ろから抱きしめられてユフィの体は驚きに跳ね上がる。

「わっ!?ヴィンセント!?いつから起きてたんだよ?」
「つい先程だ」
「そ、そっか・・・!」

ユフィは恥ずかしさから耐え切れなくなって勢い良くヴィンセントの腕の中から脱出した。

「そ、それより朝ご飯作ってくるから早く服来てきなよ!」
「お前がその服を返してくれれば今すぐにでも一緒に行けるんだが?」
「い、いーじゃん着たって!本来のアタシもよく着てたんでしょ?」
「まぁ、そうだが」
「だったら新しいの着なよ。アタシはこれがいいんだから」
「フッ・・・そういう所も本来のお前とは変わらないな」
「エヘヘ、それじゃ先にキッチンに行ってるね」
「ああ、その前に―――」

ヴィンセントはユフィの手首を掴んでぐいっと引き寄せると、ユフィの唇と自分のそれとを重ね合わせた。

「おはよう、ユフィ」
「・・・お、おはよう、ヴィンセント」

今日も二人の朝は始まるのであった。










朝の甘い時間を過ごした後、二人は港に赴いていた。
目指すはユフィの故郷・ウータイ。
ユフィにとって一番縁のある地で記憶を取り戻す為の手段が見つかるかもしれない場所。
小さな希望ではあるが、ないよりマシだ。
しかし―――

「うぇぇ〜・・・む、り・・・」

船酔いという最大の敵がユフィを苛む。
いつもの事なので慣れているヴィンセントはあらかじめ手配しておいた部屋へとユフィを連れて行く。
その途中である女性が二人に声をかけてきた。

「あのぉ、すいません」
「・・・何だ?」
「子供を見かけませんでしたか?五歳くらいの小さな男の子なんですけど」
「いや・・・ユフィは?」
「うーうん・・・はぅ・・・」
「ちょっと目を離した隙にどっか行ってしまって・・・見つけたら教えてくれませんか?」
「ああ。ちなみにその子の特徴は?」
「青い服に短パンで、胸にモーグリのバッジを付けてます。名前はデリンです」
「判った。見つけたら連絡しよう」
「お願いします」

女性は足早に甲鈑の方へと向かい、他の客たちにも同じように話しかけて行った。
見つけてやりたい所だが、とりあえず今はユフィを何とかしなければならない。
部屋へと再び歩みだそうとすると不意にユフィに手を引っ張られた。

「どうした?」
「ここ・・・何か足音がした」

ユフィは『貨物室』というプレートが付けられた扉を指さす。
プレートの下には『関係者以外立ち入り禁止』の札がかかっていた。

「気のせいじゃないか?」
「ううん、絶対した・・・」

ユフィはややフラつきながらも貨物室のドアノブに手をかける。
鍵穴があるので鍵がかかっていると推測出来るが、思いの外鍵は開いていて容易く扉を開ける事が出来た。

「待て、ユフィ」
「あ・・・いた・・・」

遠慮無く入って行こうとするユフィを止めようとしたヴィンセントだったが、小さな男の子の存在をその目に捉えた。
青い服に短パンで、胸にモーグリのバッジを付けている。

「君は・・・デリンか?」
「え?お兄ちゃんたち誰?」

積み重なってる木箱の上で遊んでいたであろう男の子―――デリンがヴィンセントたちの方を振り返る。

「何で僕の名前知ってるの?」
「君のお母さんが探していた。君を探して船の中を歩き回っている。ここは危ないから早くお母さんの所へ行くんだ」
「はぁーい」

デリンは聞き分け良く返事をすると木箱から降りていった。
最後の一段の木箱から下りる時にデリンはジャンプをして下りる。
ある意味子供らしい行動だと微笑ましく思っていたその時、船が何かにぶつかったかのようにグワンと大きく揺れた。

「・・・!」
「うげっ・・・!」
「うわわっ!」

突然の揺れに体制を崩しかける三人。
けれど、体勢が崩れたのは三人だけではなかった。
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