伝記
□婿候補の3
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アラシが静かに会釈して自己紹介を終えると、最後にガタイのいい、明らかにユフィより年上の男性が名乗り出た。
「ワシはヒガシヤマのゴンザエモンっちゅーおっさんじゃ!宜しくのぅ、ユフィちゃん!」
「久しぶりだね、おっちゃん」
豪快に名乗りでたゴンザエモンという男に大してユフィはニカッと満面の笑みを返した。
外見だけで見ると二人は父娘のようにも見える。
愛に歳の差は関係ないとは言うが、先程の二人の短いやり取りから見ても恋愛に発展するとは到底思えない。
本当のこのゴンザエモンという男は婿になる気で来たのだろうか?
なんだか雰囲気的には娘のように思っているユフィの様子を見に来たという感じである。
あらかたの自己紹介が終わった所でユフィが真面目な顔をして口を開いた。
「みんな、自己紹介ありがとう。改めてアタシが推薦する婿候補を紹介するよ。
アタシの隣りに座ってるのがヴィンセント・バレンタイン。多分みんな知ってると思うけど、この間の騒動を収束させた人。
色んな面でアタシより強いのは確実。みんなにはこのヴィンセントと対決してもらうから」
「ええっ!?」
ロートが驚いたようにやや後ずさる。
他の者も困ったような表情を浮かべたり眉をひそめたりと難色を示している。
それを予想していたユフィはあらかじめ考えておいたセリフを口にした。
「対決って言っても殴る蹴るとかそういう血生臭いものじゃないから。
それぞれの得意分野でヴィンセントと戦って勝った上でアタシの婿に相応しいと証明出来たら勝ちね」
「ちょっと待って下さい、いくらなんでもハードルが高過ぎでは―――」
「ウータイの次期当主であるアタシの婿を決めるんだよ。生半可な気持ちで婿になられてもこっちも迷惑なの。
このくらいのハードルも越えられなきゃ話にならないね」
異議を唱えたエウティーに対してユフィは厳しく言葉を並べた。
その言葉や雰囲気はまさしく次期当主としてのユフィで、いくら今回の婿問題を煩わしく思っていてもいい加減ではないのが分かる。
確かにウータイという国の未来を共に背負っていかなければならないのだ。
ユフィと共に添い遂げる覚悟があるのならばどんなハードルも超えてみせる度胸などが必要だ。
その上でユフィが関心を持てるような人物でなければ、たとえハードルを超えてもこの先やっていけないだろう。
それは結構なのだが・・・
「(ユフィ、あまりハードルを上げないでくれ)」
「(アンタ、元タークス・オブ・タークスでしょ?どんな対戦になろうとヨユーでしょ?)」
「(限度がある)」
ヒソヒソと話し合う二人を他所にアラシがフッと息を漏らした。
「ウータイの次期当主の婿を決める問題なんだ、そうでなくちゃいけねぇ。覚悟のない奴は帰れ」
「全くじゃ。漢を見せれんやつがユフィちゃんと共にウータイの頂点に立てると思ったら大間違いじゃ」
ゴンザエモンも同意して頷く。
二人のそうした言動にロートとエスティーはムッとなってしっかりと居住まいを正した。
その四人の態度を認め、ユフィは話を進めた。
「みんな、参加するでいいんだね?」
静かに頷く四人。
「じゃあ、もう一つヴィンセントと戦うにあたってのルールを説明するよ。
一つ、死に至ったり大怪我になるような決闘はしないこと。あくまでもヴィンセントを負かすだけ。
二つ、他の婿候補の妨害はしないこと。したらその時点で失格だから。
三つ、正々堂々と漢らしく挑むこと。せこい奴とか卑怯な奴はアタシ嫌いだから。
後はアタシが不適切と判断した場合はその場で失格だから。そんな細かくはジャッジしないけど、気をつけるように」
そこまで説明すると、ユフィはポケットから四枚のトランプのカードを取り出して切り始めた。
そして適当に切り終えた所で四人の男たちの前にそれぞれ一枚ずつ裏向きにカードを伏せて配った。
「そのカードを捲って『1』だった人は明日、ダチャオ像の前に来てね。
『2』だった人は明々後日って感じで一日置きに順番にダチャオ像の前に来るように」
「何で一日置き?」
カードをヒラヒラ持ちながらロートが首を傾げて尋ねる。
「連続で挑まれたら流石のヴィンセントも疲れちゃうじゃん。それにそうなると最後の奴が有利になるし。
だから一日休養を取ってヴィンセントにもアンタたち婿候補にも準備をしてもらうって訳」
「あ、なるほどね〜」
「そういう訳だから今日はもう解散。スケジュールが厳しい人は他の人と相談して変わってもらってね」
そう言ってユフィは立ち上がると部屋の襖を開けた。
退出しろという事を示しているのは誰でも理解出来た。
四人の婿候補の男たちはそれぞれカードを懐にしまうと静かにキサラギ邸から出て行った。
「はぁ、本当にすまんの、ヴィンセント殿。こんな面倒事に巻き込んで」
四人の婿たちが完全に出て行ったのを見計らってゴドーは溜息混じりに口を開いた。
「面倒事に巻き込まれるのはもう慣れてるのでお気になさらず」
「親父、蔵にあるウータイ酒持ってくから。ヴィンセントが飲みたいって言ってるし」
「ああ持ってけ持ってけ。ついでに秘蔵の梅干しも半分持ってってていいぞ」
「マジで!?やりぃ!!」
お許しが出たユフィはそれはそれは嬉しそうにパタパタと蔵のある方へと駆けて行った。
残されたヴィンセントとゴドーは再度深く溜息を吐くのであった。
続く