伝記

□1大人気ない
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限りなく恋人に近い関係。
それが今のヴィンセントとユフィの関係だった。

「ヴィンセント、今日一緒にご飯食べよ!」
「ああ、いいぞ」
「んでさ、帰りに寄りたいとこあるんだけど」
「TUTAYANか?」
「そ。ゲームの攻略本が今日発売されるんだよ」
「私も丁度読みたい本があったから寄るとしよう」
「やった!」

こんな他愛のない会話も周りからしてみればイチャついているように見えるらしい。
この間だってセブンスヘブンでクラウドに「お前ら付き合ってるのか?」なんて聞かれたくらいだ。
自分たちとしては全くそんな自覚はないが、でもそういう関係になってもいいかもしれないとお互いに思っている。
だから今度、ユフィをゴールドソーサーに誘って関係をハッキリさせようかと思っている。
ベタかもしれないが、ロマンや味気がないよりかはマシだ。

さて、そんな予定を立てていた二人の元にリーブからお呼び出しがかかった。
何事かと思って局長室に行ってみると見慣れない中年の男性が応接用ソファに座っていた。
その男性についてリーブが紹介を始める。

「あ、ヴィンセント、ユフィさん、来ましたね。いきなりですが紹介します。
 民間の防衛企業『セコムゥ』の本部長・マット=アンデルスさんです」
「どうも、マット=アンデルスです」

中年の男性は紳士のような柔らかい物腰で立ち上がると綺麗なお辞儀をした。
それにつられてユフィとヴィンセントもお辞儀をする。

「ヴィンセント=ヴァレンタインだ」
「ゆ、ユフィ=キサラギ・・・で、す」
「さて、お二人を呼んだのはこちらのセコムゥへの派遣についてです」
「派遣?」

ユフィが首を傾げるとリーブは「そうです」と頷いて説明を続けた。

「セコムゥは知っての通り民間の防衛企業で主に街の周りに現れるモンスターや、
 街から街への移動時の護衛を請け負うのですが、そこの社員の方が一名負傷してしばらく出られなくなったそうなんです。
 そこでWROから一名派遣で出して業務を手伝う事になりました」

セコムゥとはリーブの説明通り、モンスターなどから一般人などを守る為の新しい企業の事である。
ある意味でWROと同じ組織であり競合会社でもあるのだが、これに関してリーブはあまり気にしてはないかった。
むしろWRO一強でいるよりもライバルがいた方がいいと考えていたりする。
切磋琢磨する事によって互いの組織としての質が上がり、また旧神羅の時のような巨大企業による独占状態は良くないと学んだのである。

「で?その派遣にアタシとヴィンセントが行けばいいの?」
「いえ、ユフィさん一人に行ってもらおうと思っています」
「アタシ一人?」
「はい。欠けているのは一名なので穴埋め要員も一名で十分かと思いまして。それにお二人が揃っていなくなると色々困りますし」
「・・・そうなると派遣されない私にどんどん仕事がのしかかってくる訳か」
「心配しなくても厳しい配分はしませんよ。それよりもヴィンセントの方は問題ありませんね?」
「ああ」
「ではユフィさん、お願いしても宜しいですか?」
「うん、いいよ。ちなみに期間はどのくらい?」
「えーっと、三ヶ月くらいですよね?」
「そうですね、大体三ヶ月くらいでしょうか。ご迷惑おかけ致しますが、何卒宜しくお願いします」

マットがもう一度頭を下げると、ユフィは「まっかせなさい!」とドンッと胸を叩いて快く引き受けた。
そんなこんなでユフィの『セコムゥ』への派遣が決まるのであった。




そしてその日の夜、ユフィはヴィンセントとレストランでパスタを食べながら今回の事について話していた。

「派遣か〜。しばらくWROとは違う職場に行かなくちゃなんだね〜」
「不安なのか?」
「まさか。ただいつもの癖でうっかりWROに来ちゃいそうだな〜って」
「その時はこっちで仕事するといい」
「セコムゥにはなんて言うのさ?」
「風邪を引いたとでも言っておけばいい」
「そんなのが通じるのは寺子屋までだっての」

ヴィンセントの冗談にユフィはクスクスと笑いを漏らした。
でも、うっかりWROに来て欲しいのはヴィンセントの本音でもあった。
しばらくユフィがいなくなるのは寂しい。
騒がしいと思う事はあれど、近くにあったそれが一時的になくなるのは物足りないと思う。

(寂しい、物足りない、か・・・)

いつからユフィに対してこんな感情を持つようになったのかは判らない。
でも、気付けば彼女に惹かれていた。
罪から解放され、寿命を取り戻したが恋い焦がれる相手は出来ないだろうと漠然と思っていた。
けれどそれがいとも簡単に出来てしまうとは世の中とは不思議なものである。

「そーいえばさ、今度『プラネットウォーズ』のエピソード11が公開するんだって。見に行こうよ!」
「ああ、いいぞ」

二人でこうやってどこかに行く約束をして遊ぶのも珍しい事ではなくなっている。
むしろ、当たり前だ。
普通の恋人同士などが普通に交わすであろう会話、約束がヴィンセントにとっては堪らなく愛おしく、尊い。
その相手がユフィであるなら尚更。

ヴィンセントはユフィへのこの想いを大切に育んでいきたいと思った。
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