伝記

□1大人気ない
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さて、ユフィが派遣されてから一ヶ月が過ぎた。
休日は微妙にズレている所為で中々会う事が出来ず、たま〜に電話をするのが関の山だった。
ところが本日、セコムゥに行く用事が出来た。
内容は書類を届けるというもの。
本来であれば部下か事務の人に任せる用事なのだが、久しぶりにユフィに会えるという事でヴィンセントは自らこの役を買って出た。

そんなこんなでヴィンセントは現在、セコムゥの受付の前にいる。

「WROのヴィンセント=ヴァレンタインだ。本部長のマット宛に書類を届けにきた」
「ヴィンセント=ヴァレンタイン様ですね、ありがとうございます」
「それから、ユフィは―――」

「ヴィンセンとー!」

どんっ!と背中に強い衝撃が発生して一瞬だけよろめく。
なんとなく気配がしていて敢えて振り向かなかったが、予想通りの人物に思わず口元が緩む。
脇の方に目を向ければ、待ち焦がれていた人物が満面の笑みを浮かべて自分の名前を嬉しそうに呼んだ。

「よっ!ヴィンセント!元気にしてたか〜?」
「お前の方こそ、相変わらずのようだな」
「エヘヘ、まーね!それよりもアタシがいなくて寂しかったんじゃ―――」

「ユフィさん」

不意にユフィの言葉を遮る爽やかな声が受付ホールに響いた。
誰だろうと思って声の主を振り返ると、ユフィよりも少し年上くらいの青年がやや怒ったような表情を浮かべてこちらに歩いて来ていた。

「リィン、どしたの?」
「先ほどの報告書、間違いがありましたよ。書き直しして下さい」
「うえー、やだ〜」
「嫌だじゃありません」

自分やリーブが普段ユフィとしているやり取りを同じようにする青年―――リィン。
会話のやり取りもいつも自分とユフィが交わしているのと同じだ。

「後でじゃ駄目?今ヴィンセントが来てんだけど」
「では、後で必ず直して下さいよ。―――ヴィンセントさん、お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ございません。
 セコムゥのリーダーのリィン=ファーシーです」
「・・・ヴィンセント=ヴァレンタインだ」

互いに名乗って握手を軽く交わす。
中々の好青年だが、なんだか癇に障る。
特にユフィと馴れ馴れしくしているのに物凄い苛立ちを覚えた。
まだ知り合って一ヶ月くらいの癖に。

「今日はどのようなご用件でこちらに?」
「書類を届けに来た」
「それは態々ありがとうございます。良かったらゆっくりしていっては如何でしょうか?」
「そうだよヴィンセント!ゆっくりしていきなよ!」
「・・・悪いが、処理しなければならない案件がある。だから今すぐ帰らなければならない」
「えー?そんなの後でいいじゃ〜ん」

唇を尖らせて不満を漏らすユフィが可愛らしい。

「いけませんよユフィさん、ヴィンセントさんが困ってるじゃないですか」

ヴィンセントからユフィを剥がそうとする男が煩わしい。
誰も困ってなどいない。
余計な事を。

「ちぇー」
「じゃあな、ユフィ」
「もう行っちゃうのかよー・・・」
「・・・では、今日は久々に夕飯でもどうだ?」
「ご飯?行く行く!一緒に行こ!」
「ちゃんと時間までに報告書を片付けておくようにな」
「判ってるって!」
「では、約束だ」

スッ・・・と軽くユフィの前髪を掻き上げて鉢巻の上から口づけを落とす。
その時、一瞬だけ周りの時間が止まった。

「・・・!」
「では、終わったら連絡してくれ」

ユフィの頭を軽く撫でて背を向ける。
真っ赤な表情をしたユフィが脳裏に焼き付いており、おかしさから人知れず笑みが溢れる。
加えて背中に注がれる敵意がとても気持ちよかった。











続く
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