伝記
□今宵の夢は2
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筋肉番号付のおっさんを速攻で永久消去をしたルクレツィア。
そんな二人の次なる遊びはアイドルゲーム。
アイドルになりきってリズムに合わせて歌って踊るのだが、これが中々体力を使うもので、二人は既にヘロヘロだった。
「知らなかったわ・・・アイドルがこんなにも体力を使う職業だったなんて・・・」
「ものすっごい疲れた・・・きゅーけいしよ、きゅーけー・・・」
「そうね。じゃあ、のんびり出来るように景色を変えましょうか」
パチンと指を鳴らしてアイドルのステージから緑あふれる林へ。
小鳥のさえずりと川のせせらぎ、木漏れ日が疲れた体を癒す。
二人は草の上にゴロリと寝転がって体を大の字に広げるとのんびりと会話をする。
「これ何のゲーム?」
「どうぶつの林」
「あーあれね」
「景色だけ出したから特に何もしなくて大丈夫よ。でもちょっとだけ雰囲気を出して―――」
パチンと再び鳴り響いた音と共にユフィの衣装がキツネコスチュームに変わる。
キツネ耳のオマケ付きだ。
「こらー、勝手に衣装変えるなー」
「いいじゃない、可愛いわ」
「だったらアンタの衣装も変えてやるー」
「バリア張ったのでダメでーす」
「卑怯だー」
手で緩く×を作るルクレツィアにユフィは緩く不満を漏らす。
揃いも揃って子供である。
「この後は何すんの〜?」
「そうねぇ、折角森なんだし涼しくなれるゲームでもどう?」
「いいね〜。暑くなった体を冷やそー!」
「それじゃあ行きましょうか」
ルクレツィアはニッコリと微笑んで立ち上がるとユフィに手を差し出して立たせた。
「サンキュー」
差し出された手を掴んでグッと立ち上がるユフィ。
しかし、立ち上がるのと同時に世界の景色は明るい森から薄暗い森へと変貌し、穏やかだった風は薄寒い風へと変わった。
雰囲気も先程と明らかに変わっており、生命溢れる世界から物悲しく寂しい世界になってしまっているのも見逃せない。
加えてルクレツィアとユフィの服装は白い着物になっており、不気味さを助長している。
「え・・・これ何のゲーム?」
「霊〜蒼い蝶〜よ」
「えぇええええええええええええええええ!!!!??なんでそれやんのさー!!!?」
「あの怖い雰囲気を肌で感じてみたいじゃない」
「感じたくない感じたくない感じたくない!!!!感じるなら一人で感じろ!アタシはここにいる!!」
「いてもいいけど一人で居られるの?」
・・・・・・
・・・・・・
「・・・・・・ああああああアタシを一人にするな〜!!!」
「じゃあ行きましょうか」
「い〜〜〜〜や〜〜〜〜だ〜〜〜〜!!!」
泣き叫んで全力で拒否するユフィをルクレツィアはズルズルと腕を引っ張って引き摺って行く。
なんともドSである。
「やだやだやだやだ!!アタシ目ぇ瞑るー!!!」
「目瞑っていいけどその分感覚が研ぎ澄まされてもっと怖くなると思うけど」
「や〜〜〜だ〜〜〜!!」
「目隠し・・・感覚・・・フフッ」
「おいコラ!今何で笑った!?一体何を考えてた!!?」
「それは次回のお楽しみという事で。ほら、屋敷が見えて来た」
「うそ〜〜〜〜!?」
「大丈夫よ、貴女の為に最初からカメラを持ってる設定にしてあるから。あ、幽霊」
「ひぃいいいいいいいいいい!!!??」
右サイドから現れた怨霊に慄いてユフィはルクレツィアの背中にビタリとくっついて腰に手を回す。
対するルクレツィアはカメラを構えてノリノリで怨霊を撮影していた。
そりゃぁもう嬉しそうに興奮気味で。
「見て!幽霊よ幽霊!現実で幽霊に会うのは不可能とされているけれどやっぱり夢は違うわね!」
「何興奮してんのさ!?」
「後で鑑賞モードにしてじっくりと観察しなきゃ!それでレポートにもまとめなきゃ!」
「誰に提出するんだよ!?」
「貴女しかいないから貴女が読んで」
「小難しいのはやだ〜!」
「あ、見て!地縛霊よ地縛霊!本当に同じ場所に留まって縛られてるわ!あぁ!あっちのは浮遊霊ね!?激写しなきゃ!」
「も〜〜やだ〜〜〜〜〜!!!!」
大興奮で幽霊を激写するルクレツィアと、そのルクレツィアに後ろから密着して泣き叫ぶユフィ。
なんとも騒がしくカオスな構図の所為で恐ろしげな雰囲気もあったものではない。
しかし流石にユフィが不憫になったのか、ルクレツィアは撮影する手を止めてユフィの方を振り返って言った。
「しょうがないからちょっと休もうか?」
「休む!てかやめる!」
「やめるのはダメ」
「何でだよ〜!?」
「ほら、泣いてないで休憩所に入って」
「う、うん・・・」
ルクレツィアに背中を押されて部屋に入るユフィ。
しかしそこはどう見ても部屋というよりは座敷牢で・・・。
「しまった!」と思っても時既に遅く。
ガチャン、という重い音と共に扉が閉まってしまう。
ユフィは座敷牢の中に、そしてルクレツィアは扉に設けられている覗き窓の向こう、つまり外に閉め出されて分断されてしまう。
「う、うそっ!?」
「ダメ、開かない!」
二人で扉をガタガタと動かすが扉はビクともしない。
その時、ルクレツィアはドアノブの上に鍵穴があるのを見つけた。
「きっとどこかに鍵があるから探して来るわ」
「やだやだ!ここにいて!」
「すぐに戻るから」
「やだ!」
「絶対、絶対すぐに戻るから!」
ルクレツィアがユフィに背を向けて立ち去ろうとしたその時―――
「・・・“またアタシを置いて行くの?お姉ちゃん”・・・」
ユフィならざるユフィの声が悲しみと怨みを込めて囁きかけてくる。
その声にルクレツィアの背中はビクリと震え、一度振り返ってから逃げるようにしてその場を立ち去った。
「・・・満足した?」
「うん、とっても」
「じゃあさっさと出せ」
「もうちょっとだけ―――」
「ダメ!」
「はぁい・・・」
ルクレツィアは仕方なく渋々と座敷牢の扉を開けてユフィを解放してやった。
ぶっちゃけその気になれば開けられたのだが原作再現したくてワザと開けないでいたのである。
ノってあげていたとはいえ、やはりユフィには怖さのほうが勝って早く出たかったのだ。
ユフィは頬を膨らませながら不満を口にする。
「も〜!今度騙して閉じ込めようとしたら許さないかんね!」
「ごめんなさい。でも貴女もノリノリだったじゃない」
「乗ってあげてたの!はいもうこの世界おしまい!次!」
「うーん、じゃあホラーはホラーでもミステリーホラーはどう?」
「つまり?」
「『かまいたちは夜』よ!」
パチン、という切り替えの合図と共にまた世界が変わる。
今度は雪山を舞台にしたペンションだ。
ユフィとルクレツィアは旅行者の格好をしてペンションの玄関の前に立っていた。