伝記

□今宵の夢は2
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「おお〜!『かまいたちは夜』じゃん!でもこれこの間やったから犯人とか丸わかりじゃない?」
「大丈夫よ、登場人物と設定変えておいたから最初から楽しめるわ」
「ナ〜イス!主人公は勿論アタシたちだよね?」
「勿論!二人でこのペンションの悲劇の謎を解きましょう!」
「おー!」

そんな訳で早速インターホンを押すユフィ。
すると中から中年の男が現れて二人を招き入れた。
このペンションのオーナーだ。
二人は中に入り、荷物を置いて身なりを整えると談話室に赴いた。

「お茶でもどうですかな?」
「あ、宜しく〜」
「私もお願いします」

ソファに座るなりお茶の伺い立てをしてきたオーナーに二人は注文をする。
注文を受けたオーナーは恭しく頭を下げると部屋のの奥へと引っ込んだ。

「いい?ここからは私たちの行動や選択次第でバッドにもグッドにもなるから慎重にね」
「分かってるって!」

「お茶をお持ち致しました」

「んー、あんがと」
「ありがとう」

「時にお客様、露天風呂の方はまだ覗かれていませんかな?」

「まだだけど?」

「でしたら入るなら今のうちでございます。まだ他のお客様もいらっしゃられてないので一番風呂に入れますよ」

「お、一番風呂か〜いいね〜。アタシ入ってこよっと!」
「良かったら背中流そうか?」
「ヤダッ。つかダメ!絶対変な事しそうだし」
「まだ筋肉番号付のこと引きずってるの?」
「引きずるに決まってんじゃん!お、女同士であんなさ・・・」
「新しい扉を開くのもいいと思わない?」
「思いませ〜んだ!」

ユフィは小さく舌を出すとソファから立ち上がって着替えの服とバスタオルを取りに二階に上がる。
そんなユフィを可愛らしく思いながらルクレツィアは談話室でまったりと過ごす事に。
そこから一人二人とペンションの宿泊客が訪れて瞬く間に談話室は賑やかになる。
ところがそれは大分経ってからの事でルクレツィアは未だに一人だった。

「あなたのお連れさん、大丈夫ですか?お風呂に入ってから結構経つんじゃ・・・」

登場人物その1のアネミアにユフィの心配をされてルクレツィアの表情も曇っていく。

「何かあったのかな・・・私、ちょっと様子を見てきます」

不安を搔き消すようにルクレツィアは立ち上がって足早に露天風呂へと急ぐ。
きっとユフィは長風呂派なのだ、それにウータイ人は風呂が好きで長く浸かっている事もよくあるという噂を聞いた事がある。
だからユフィもきっとそれだ。
決して・・・決して何かがあったとは信じたくない。

(お願い、無事でいて・・・!)

焦る心を宥め、祈りにも似た願いを以って勢い良く露天風呂への扉を開く。
そしてその目に飛び込んで来たのは―――

「いやぁあああああああああ!!!」

ルクレツィアの悲痛な叫び声が談話室まで届き、談話室にいた人間は皆驚いて顔を見合わせると一目散に露天風呂へと駆け付けた。

「ルクレツィアさん!」
「一体何、が・・・!?」

皆が見たもの、それはあるものを見つめて悲しみと恐怖の涙を流しながら座り込むルクレツィアの姿。
そしてそのあるもの、それは―――真っ赤な湯船の上でただ静かに眠るユフィの姿だった。
幸い体は一緒に浮かんでいるタオルで隠されているものの、そのタオルも血で真っ赤に染めあがっている。

「ひ、酷い・・・!」
「誰がこんな事しやがったんだ!」

「いや・・・そんな、なんで・・・」

あまりのショックから茫然自失とながらもルクレツィアはやっとの思いで立ち上がり、フラフラと湯船に入って行こうとする。

「お、おい!入らない方が・・・」

「離して!」

手首を掴んでこようとする手を振り払って構わず湯船に入る。
ユフィへと近づく足取りが重い。
お湯で重いだけではないのは確かだ。
ルクレツィアは膝から崩れるように座り込むと人形のように冷たく眠るユフィを抱きしめて泣き叫んだ。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!私・・・私が、一緒にいれば・・・こんな事には・・・誰がこんな酷いことを・・・」
「・・・・・・あのさ」
「あ、起きちゃダメよ。折角いい所なんだから」
「いい所も何もこれバッドエンドでしょ。アタシ死んじゃったし」
「その気になれば私単独のストーリが始まるんだけど」
「ふざけんな!アタシにも謎解きやらせろー」
「じゃあもう一度最初からやり直しね」
「ていうかしょっぱなの選択肢からこれって早すぎない?」
「言ったじゃない、選択は慎重にねって。もうシビアな選択は始まってるのよ」
「ちぇ〜。じゃあ次は一人で入らない」
「私と入る?」
「入らないっつの!ていうかそもそも入るっていう発想自体消すよ!」
「残念だわ。でもまぁ・・・ウフフ・・・」
「だ〜か〜ら〜!一体何考えてんだよ!?」
「ひ・み・つ。それじゃあ最初から」

パチンとお決まりのように指を鳴らして時間を戻すルクレツィア。
場所は変わって最初の談話室。
ユフィの服装はタオル一枚のまま」

「オイコラ!」

怒られたので渋々服を戻してやる。
準備も整った所で二人はまた最初からやり直した。
慎重な選択・行動を取り、時にはうっかり間違えてバッドエンドに進む事も。
しかし二人はめげずに一つ前やかなり前の選択肢に戻ってストーリーを進めていった。
そうして今、二人は犯人指名の場面まで到達した所である。

「犯人は旅行者のアルフレッドで間違い無いわ!彼が殺したのよ!証拠はないけど!」
「それにアルフレッドなら犯行が可能だったしね!根拠はないけど!」

結果・・・バッドエンド。

「ま〜たバッドエンドか〜・・・」
「ちょっと息抜きでお遊びルートでもやる?」
「さんせー」
「じゃあ」
「ピンクルートはダメだかんね」
「まさか・・・やる訳ないじゃない・・・そんな・・・」

(やるつもりだったんだな)

事前に言っておいて良かったと白い目でルクレツィアを見つめる。
本当に色んな意味で気が抜けない。
油断も隙もあったものではない。
ユフィからの痛い視線を背中に受けつつルクレツィアはパチンと指を鳴らして場面を冒頭に戻した。
また、あのオーナーが同じように恭しくお茶の伺い立てをしてくる。

「お茶でもどうですかな?」
「あーはいはい、またそれね。お茶は―――」
「いいえ、自分たちで淹れるわ」

同じやり取りの繰り返しでややうんざり気味に同じ答えを返そうとしたユフィをルクレツィアが強い言葉で遮って立ち上がる。
なんだか強い意志を秘めているようにも見える・・・絶対違う方向のものだと思うが。
そのまま強い足取りでキッチンへと歩いて行くルクレツィアを追ってユフィもキッチへと足を運ぶ。

「な、何?何すんの!?」
「カレーを作るのよ」
「カレー!?まさかカレーは飲み物なんて言わないよね!?」
「違うわよ。お腹が空いたからちょっとね」
「え?お腹空くの?」
「空くわよ?貴女も空かない?」

ぐぅ〜

「あ、空いた。お腹空いたぁ」
「そんな訳でルクレツィアと!」
「ユフィの!」

「「ささっとクッキング〜!」」

素朴なペンションの素朴な台所は一変して小洒落たキッチンへと様変わりする。
ついでにユフィとルクレツィアの服装もエプロンと三角巾になる。

「はいはい!今日もこの時間がやってきました〜!今日のご飯は〜?」
「みんな大好き、カレーよ!」
「はいせんせー!アタシは甘口がいいでーす!」
「オーケーよ!それじゃぁ最初に野菜を切りましょう」
「はいは〜い!」
「まず玉ねぎを適当にザクザク切ります!」
「トントントン♪」
「次にじゃがいもを適当にザクザク切ります!」
「トントントン♪」
「その次はにんじんを切ります!」
「トントントン♪」
「隠し具材にニブル魚を適当に切ります!」
「トン・・・へ?ニブル魚?」
「うん、美味しいのよ」
「アタシてっきり普通のかと・・・てか、ニブル魚ってすっっっごいマズイって聞いたんだけど」
「それがね!驚く事にカレーと混ぜると物凄く美味しくなるのよ!」
「何で何で!!?」
「野菜とかお肉に含まれてる成分がなんやかんや合わさって隠された旨味を引き出すのよ!」
「なんやかんやだって!?」
「そう!なんやかんやよ!」

ツッコむものか。

「ティファのとっておき特製カレーの秘訣はこれだったのか・・・」
「それより貴女、思っていたより料理が上手なのね」
「あったりまえじゃん!アタシを誰だと思ってんのさ!
 ティファっていう料理のスペシャリストに仕込んでもらったりしてるんだからさ!」
「じゃあ・・・今度『オイラの料理』で勝負しない?」
「ふふん、いいよ。アタシに勝てるかな〜?てか、今から勝負しないの?」
「今はダメよ。何故なら・・・壮大なる冒険が私達を待っているのだから―――」

一陣の風が吹き抜け、二人の髪を大きく揺らす。
それは、始まりの予兆。
それは、勇気の息吹。
それは、世界に光を齎す輝き。

気付けば二人を取り巻く世界は緑溢れる大地へと姿を変えていた。
見渡す限りの草原、遠くに見える大きな火山と高貴な城。
そして呑気な牛の鳴き声。
この世界はまさしく―――

「ゼルダ○伝説!?」
「いいえ、マルタの伝説よ」

早くもクソゲー臭が漂ってきた。
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