異端の神

□なんてことなくありふれた日常
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常に白い物の怪と共に昌浩についている黒猫は、今日は昌浩に頼まれた為、彰子の側についていた。その理由というのが昌浩曰く『女の子同士の方が彰子も気が楽だろうから』ということ。女の子、と言われて一瞬黒猫は昌浩を凝視したが、今の自分の姿を思い出して、なるほど、と納得した。確かに神将達では彰子も気を張るだろうし、彼女は自分を物の怪と思っているから雑鬼達と変わらないだろうなと思ったのだ。そう考えて、黒猫は二つ返事で頷いた。

が、昌浩達が出て少ししてから聞かされた言葉に、黒猫は固まることになる。

夜明けのような色の丸い瞳を更に丸めて、黒猫は彰子を見つめた。

「あの、彰子…なんて言ったの?」
「だからね、お世話になったお礼がしたいから、市に一緒に来て欲しいの」
「…お礼って、誰に?」
「雑鬼達に」

その言葉を聞いて黒猫は思わず頭を抱えたくなった。

時にこの姫は、昌浩同様突拍子もないことを思いつく。主である晴明や昌浩ほどではないが、それでも彰子の行動力は自分や白い物の怪、神将達も驚かされる。

彰子の言うお礼とは、おそらく正月の時のことだろう。一時期、身を隠す為に過ごした邸の掃除を雑鬼達が手伝ってくれたのだ。

その礼がしたいというのは、わからなくもない。この優しい姫のことなのだから。

と、そこまで考えて黒猫はふと彰子を見上げた。

「ねぇ、彰子?」
「なに?」
「まさかとは思うけど、神将達に呼んできてって頼んだ?」
「ええ。みんな呼んできてくれるって」
「……へぇ、そう」

満面の笑顔で言われて黒猫は床に突っ伏した。

もう、どうにでもなれ。そう心中で呟いてから起き上がる。

「クロ?大丈夫?」
「…大丈夫。市に行くんだよね?なら早く行こう」

諦めたように黒猫が言うと、彰子は嬉しそうに笑った。








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