原作

□奪回
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深まり行く冬。
日に日に、寒さは
増して行く。

高杉は、普段の居を
水上に浮かべた
屋形船から、
息の掛かった隠れ宿に
移していた。


部屋の外は、宵闇。
寝具に包まる高杉に、
傍らより声が呼ばわる。

「傷に薬を
付ける刻にござるが。」
「要らねェ…」

返って来た力無い声に
万斉は、人知れず溜息を
着く。

壊れ行くのは結構、
しかし今は
天地揺るがす大事を
起こす、最中。
灯には、未だ明々と
燃えていて貰わねば
困る。


と、その時。

ガタ

それは微かに響いたが、
夜の静寂を打ち消すには
充分だった。

「何奴。」
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