原作

□黒猫
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障子を透かし、差し込む
白々とした光。
遠く烏の声がする。

…朝か。

寝床より身を起こして
柔い光の中、部屋を
見回せば

エリザベスが、いない。


あ奴は常日頃、それこそ
滅多に勝手に
うろつく事も無く、
俺の傍らで愛らしい笑顔を
振り撒いているのだ。
この前、その件に就き「桂さーん、そりゃ主観が過ぎるってもんですよ。」等と不届きな事を宣う同志に、
俺は無言で鉄拳を
くれてやったばかりなのだ。

お前がいなければ
俺は、俺は――…!

「エリザベスー!!」

名を大きく呼ばわり、
勢い付け障子を開け放つ。

すると先ず眼に入る
庭先の、冬の霜付く
ねこやなぎ。

その枝先に、微かに煙が
掛かっている。

更に目線を下ろすと
俺の足元、縁側に
見知った人影が
腰掛けていた。

煙管を燻らし
深く被った笠の下、
片方だけの眼を眇め
クツクツと嗤う。

「…高杉、お前」
「よォ、ヅラァ。
朝っぱらから、威勢の
良いこった。
高血圧のジジイ、並だな。」

減らず口を叩くから
こちらも負けずに、

「ふん、貴様こそ。
朝っぱらから、他家の
軒下で丸まっているとはな。
迷い猫と見誤ったぞ。」

すると相手は眼を細め、
「ニャア。」
と鳴いて寄越す。
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