原作

□紅椿
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アイツの隠れ家を
訪ねるのは、大方
早朝になる。



俺の元にゃ、己直々に
指示を下さ無ェでも
各々勝手に計略を
進めていく様な連中
ばかりが揃っている。
と言うか、そんなのを
選んで、集めた。

だが、昼の会合位にゃ頭が
居ねーと座が締まらんと、
武市の奴が五月蝿ェ。
それに余り放っといても
また、…岡田の様な
阿呆が出るかも
知れねーしな。

そして、三味を遊ぶのが
夜だ。万斉と共に
弾き語るのは、
素直に楽しい。
無骨な野郎ばかりの
俺ンとこで、奴だけは、
雅を解す。話が合う。
心を、許せる。


…だが、やっぱりアイツァ
特別なんだ。

昔…思い出すのも
何だかなァ…‥とにかく、
ずっと、ずーッと昔。
まだ俺の世界が
形を保っていた頃の話さ。
塾じゃ、俺ァ
外れ者だった。
外されたンじゃ無ェ、
…先生、以外の奴とは
付き合うのも
面倒だったんだ。
そんな折、俺の手を引き
無理矢理にでも
皆の輪の中へ懸命に
入れようとしていたのが、
アイツ…

桂小太郎だった。


優等生面して、
節介焼きで、お人好し。
頭なんざ、固ェ固ェ…。
だが、内に秘める
芯の強さと、時たま見せる
天然っぷりが愛され、
どいつからも慕われてた。
「ヅラ」なんて、
気安い呼称迄受けて。
俺とは違う、
めでてェ世界の
住人なんだと、始めは
つくづく、うざかった。

だが、払っても払っても、
その手を優しく
差し延べて来る、桂。


‥…ヅラ。


俺が、初めてそう呼んだ時
奴は皆に見せる様な
否定のそぶりはしねェで
代わりにニコリ、と
笑顔を返した。



ヅラは、俺の世界の
二番目の住人になった。


それは、
今も
続いて
……………‥
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