原作

□魅了
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のどかな昼下がり。
過ぎ行く梅雨に
磨かれた日差しが、
開け放たれたる窓より
さんさんと
差し込んで来る。

その名を聞かば
泣く子も黙る
鬼兵隊首領・高杉晋助。
この男、先刻から
湧き出る汗を
額に巻く包帯に
染ませ続けている。
而してその理由は、
何もこの暑さの所為
だけでは無かった。



高杉は、今日もまた
真選組の厳重な捜査網を
かい潜り、
穏健派攘夷党党首・
桂小太郎の住家を訪れた。

歩む道は違えど、二人
強く惹かれ合い
人間的な深部で
通じる過程に有る
…筈だったがしかし。

思えば、今日は始めから
桂の様子が
おかしかったのだ。

「よくぞ来てくれた高杉。
丁度先刻、俺はこの世の
奇跡たる素晴らしき物を
発現させたのだ。
お前にも、是非に見せたく
思っていた。
さ、来てくれ。」

中性的なかんばせの、
その白い頬を
仄かな桃色に
上気させた桂の様は
少女めいた可憐さをも
帯びている。
高杉はその面だけでも
賞玩に値する、などと
半ば弾ませた心で
いそいそと座敷に
向かった訳だが。

すっかり馴染みの日本間。
その座卓の向こうに
ちょこんと
座っていたのは、例の
円筒染みた生物だった。

「おいヅラ。
この化けモンなら、俺ァ
腐る程見慣れてンぜ。」

取り敢えずその
妙な生物の向かいに
崩した姿勢で腰を下ろし、
不服そうに呟く高杉。
すると桂は、立てた
人差し指をチッチッチッと
揺らしながら、

「ふっふーん。
気付かんか?
因みに化けモンじゃない、
エリザベスだ。」

その素振に半ばイラッと
していると、当の
エリザベスが寡黙なまま
卓上に己の両掌を
差し出して見せた。

そこには、半球状をした
桃色の突起が
一際大きな一ツを含んで
ひぃ、ふぅ、みぃ、よ。

「…ワケ、解らねーんだが。」
困惑の色を隠せぬ高杉。
桂はさも焦れったそうに、
「いいから、それを
ぷにぷにしてみろ
ぷにぷに!!」

「…。押してみりゃァ、
いいのか?」

ぷに、ぷに。

桃色の布に綿を詰め、
縫い閉じて有るその突起。
高杉の華奢な指先が
圧力を掛ける度に、
ほど好い弾力で
押し戻して来る。
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