原作

□実相
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年明けて暫く経った
冬の空は、
蒼く澄み渡るのに何処か
突き放した様に白々しい。

落ち着いた日本間の
奥まったところ。
高杉晋助は
片膝立てて胡座かき、
くわえた煙管から
立ち上る薄煙越しの空を
ぼんやりと見つめていた。


以前共に武器を取り、
天人に立ち向かった
戦仲間で有ると同時に、
何かと幼少時から
己と関係の色濃い男・
坂田銀時。それが、
故意では無いにしても
今回、幕府中央・春雨
双方の重要拠点で有る
吉原にて、革命の如き
一大事をやってのけた。

多少の情報操作が
有ったらしい。が、何
本当に気付かぬ程
上層も阿呆では無い。
只、何の思わく有ってか
今は野放しにしているのである。

春雨と提携を結んだと
言えども、所詮相手は
犯罪組織。
己等への侮蔑も甚だしい。
難癖つけて隙有らば、
幾らでも好きに扱って
良いと迄思っている
…この、首領である
己の躯さえも。

高杉は自ら率いる組織の
幹部に護られる様な
形で身を潜め、今は此処
穏健派攘夷党党首・
桂小太郎宅に
身を寄せていた。

よく考えてみずとも、
これもおかしな話だ。
桂とは真逆の意向を持ち
国に接する間柄なのに、

共に居る時は、何故か
国など遥か遠ざかる。


心は怨と想を
行きつ戻りつ
己は最期に
何処へ行くのか

――この恋も、また。



「高杉。飯だぞ。」
背後から、耳に心地良い
涼やかさに柔らかみを
帯びた声が、己を呼ばう。

そうだ。俺は今、
桂の家に居るのだ。

浮き立つ心が
取り留めの無い思いを
隅に追いやって行く。
高杉は、いそいそと
煙管を卓上に置いた。
「ああ。」
振り返り答えるその声は、明るい。
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