原作

□雪裡
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ひら、
ひら、はらり。


今年初めて舞い降りた
雪華は見る間に
喧妍となり、
地表の全てを白銀一色に
染める迄続いてから
ようやくに咲き止んだ。

「ヅラァ、雪だ。
結構積もったぜ。」
障子紙より透かし入る、
陽光の強い照り返し。
誘われ戸を開けた
高杉の歓声が、
桂宅の庭先に響く。

攘夷志士の内で最も
危険と、世に恐らるる
この男。
実は意外にも、驚く程
無邪気な一面を持つ。
心打ち解けた相手にのみ
垣間見せるそれに
桂も心和ませつつ、
奥から藁靴を
二足持ち出して来て
「まぁ待て。草履で
飛び出す奴が有るか。」


サク、サク。桂の歩く音。
サクッ、サクッ、サク。高杉の
わざと雪を踏み締め
歩き回る音。
「クッハハ、
こんな積もるってなァ
此処らじゃ珍しいよな?
…おいヅラ、
何やってんだよ。」
「うむ。雪うさぎでも
作ろうとな…高杉、
そこらに南天の木が
有る筈だが」
「アア、こいつだな。」

桂の作った兎に
南天の葉で耳を、実で瞳を
付けてやった後、
己も隣に兎を作る。
また何時の間に
摘んで来たのか、それに
朱い寒椿を添えて

「白兎(はくと)たァ、
お月さんの事も言うだろ。
お前ェにぴったりじゃ
ねーか、なァ。」

「ハハ、流石は高杉。
洒落た真似を
するものだな。」

そう微笑む桂の氷肌玉骨
正に雪に溶け込む様で、
高杉は暫し呆けた様に
見とれてしまう。

「…へッ、まァな。
ところで、寒くなって
来たんだけどよ。」
「そうだな。戻って
温かい茶でも飲むか。」
「おっ、そいつァ
有り難ェや。」

白い息を吐き吐き、
屋内に戻り行く二人。
寄り添いながら見送る
雪うさぎ達の朱い瞳は
やはり双方合わせて、
三ツ。
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