原作

□虜花
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匂いを乗せて 桃の花
散る 散る


小路地から、幾人かの
女童が飛び出した。
振袖を 振り 振り
温き春風を
色とりどりに掻き混ぜ、
其はまるで蝶の様な。

はしゃぎ 遊び 唄う。
「明かりを付けましょ
ぼんぼりに」


アアそうか。今日は
上巳の節句だったっけな。

そして高杉は、ふと思う。

何時からこの隻眼は、
この国の四季を映し取り
胸に伝え和ませる事を
思い出したのだろう。

…全く、らしく無ェと
一笑に付す。
こんなにも心が
浮足立つのは、
昨夜、桂の方から
連絡が有ったからだ。
『近々逢えぬだろうか、
是非に見せたい物が有る。』

恋慕の情を寄せる相手に
求められるのは、
嬉しい。
この俺に、一体何を
見せてェってんだ?
「五人囃子の笛太鼓…」
思わず口から
飛び出していた鼻歌に
これまたらしく無ェと
慌て顔を紅潮させつつ、
高杉は続き
情処への道を急ぐ。
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