原作

□櫻下
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春の日差しは、
雛鳥に似ている。

仄か黄色味を帯びて
柔らいで眩しく、そして
温もりは愛しくとも
心許ない程に、儚い。



さて、今回
高杉晋助は桂小太郎に、
誘い出されたので有った。
その場所たるや、
江戸中心より幾分外れに
差し掛かる、緩やかな
川尻のほとり。

――アイツ、この俺を
唐突にそんなトコ迄
呼び付けやがって、
何だってンだ。

それでも、諸用は周囲に
押し付けて(これは
特に用など無くとも
毎度の事なのだが)、
桂の指定した大柳の下
こうして少しく胸を
浮き立たせつつ
相手を待つ己が居る。


「おーい、たかすぎー。」
程無く、聞き慣れし
涼やかな声が
我が名を呼びながら
近付いて来た。
「済まんな、待たせたか。」
ツイと傘を上げれば、
相手も傘の下
顔を覗かせニコニコと笑う。
「待っちゃいねェがよ…
…臆病なてめーらしくも
無ェ。俺の名を、そんな
大声で叫んで来やがって。」
「臆病じゃない慎重だ。
ハハハ、案ずる事は無い。
今、幕府の犬共は
此処より遠く離れた場で
花見に興じているのさ。
だから、俺も急遽
この日を選んだ訳だ。
…うむ。お前もちゃんと
脚絆を付けて来たな。」

桂の方はそれに加え、背に
小さな風呂敷包み迄も
結び、ちょっとした
旅人の風貌だ。

「それァ、手前ェが
付けて来いって
電話口で五月蝿く言って
いたからな。」

「よし。それでは
此処から俺の家迄、いざ
花見遊歩を始めるぞ!!」

(な・何だと?!)
意気揚々と歩きだそうと
する桂の袖を、高杉は
慌てて引っつかむ。
「オイ。ツッコミ所は
山程有るが、取り敢えず
此処から手前ェん家迄、
どれだけ有ると
思ってンだ。」
「一里半程だな。
大丈夫だ高杉。俺は近頃、
散歩の素晴らしさに
目覚めたのだ。
先日、昼前に見た
テレビに影響されてな。
初老の人よさ気な俳優が、
実に心温まる散策を…」
「『ぢい散歩』じゃ
無ェか!!」
「ほう奇遇だな、
お前も好きだったとは。」
「武市が良く見てンだよ
…って、オイ待ちやがれ!!」
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