原作

□華音
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他の攘夷党との談合を
済ませた、その帰り道。
続く論議に痺れた頭を
休めんとする遠目に
飛び込んで来た薄緋色が、
かぎろいを浴び
鮮やかで鮮やかで。

嗚呼、桜の季節だな。

桂小太郎は、
想いを馳せる。
あ奴を何時、花見に
連れて行こうか――――


「おい。」

差し掛かる、ひと気の無い
四ツ辻。背後から不意に、
呼び止められた。
見る間に、抜刀した
十数人の浪士に囲まれる。

どれもこれも、
見知った顔ばかりだ。
以前、党の方針を
過激派から穏健派へと急に
移行した際、己が元を離れ
その後鬼兵隊の門を
叩いたと伝え聞く、面々。

「桂さん…いや、桂ァ。
俺達はな、以前
アンタの元に居たって事で
悪評付いちまってなァ。
今の場所でも、中々
居心地悪ィんだわ。」

「そこでだ。アンタの
首でも持ち帰りゃあ、
俺らの信用も鰻登りってェ
寸法よ。」

「手前ェの様な間怠っこい
奴がのさばってる事が、
余計天人共に
この神国の土を、いい様に
踏み荒らさせてんだ。」

「よって我ら、ここに
天誅を下さん!」

刀を構えジリジリと
狭まって来る人輪に向け、
桂は顔を顰ると同時に
深く溜息をついた。

「貴様等は、奸邪な
天人共に寄り掛かり
倒幕を果たしたとて
その先に待つは、更なる
天人による蹂躙である事が
解らんのか。

今は、彼らと同等に
渡り合える様な
我らの体制迄を見通した、
護国の民による革新の
準備を進める時なのだ。

…かつての同志を
殺める事もしたく無い。
どうか刀を、納めてくれ。」

首領格の男が、ニヤリと嗤う。
「御託はそこ迄か。
野郎共、やっちまえ!!」

桂は仕方なく、腰に差した
愛刀を抜く。
白刃一閃、その瞬間
鋭い峰打ちで
数人が地に伏す。

「おいおい、余裕だなァ。
流石穏健派、ってとこかァ?」
次々と襲い来る浪士達。
流石の桂も、次第に息が
切れて来た。
何しろ相手は大人数な上、
殺さぬ様に斬ると言うのは
普通に斬り捨てる事より
骨が折れるのだ。

その時だった。

ドゴォッ!!

「うぐあっ!!」

突如現れた白いベスパが、
今にも桂に
斬り掛からんとする浪士を
微塵の迷いも無く、
跳ね飛ばしたのは。
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