似非3Z

□雨上がりにも気付けない
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「わっ、冷てッ…て、雨だ。」
「ふん…面倒だが、傘を出すか。」

右肩に掛けたサブバッグをガサゴソとやり、程無くして黒い携帯傘を取り出す桂。それを見た高杉は皮肉気に、
「流石、てめーはそういうトコ抜け目無ェな。昼間はあんなに、晴れてたってのによ。」
桂は、並び歩く高杉に傘を半分貸しながら、
「携帯傘など、大した荷物にもなるまいに。お前も日頃からこの位、用意しておけ。」

二学期が始まり早々、高校三年生で有る二人は、中間テストの準備に取り掛からねばならなかった。
放課後の図書室にて、高杉が物理数学を、桂が英文古文をと。互いの得意分野を教え合う内に、何時しか初秋の日はとっぷりと暮れていた。
見回りに来た用務員に急かされる様にして外へ出ればいきなりの、この天候の仕打ちで有る。

雨雲も見分けのつかぬ暗天から落ちた雫の大粒は見る間に数を増やし、二人の屋根をバタバタと、激しく打ち叩き始めた。


「畜生、濡れちまう。足もビショビショだ。」
桂は高杉の頭上、さりげなく傘の面積を増やしてやりつつ、
「ほう…慌てふためくお前など、珍しい。
今日は思い掛けず、面白いものが見られた。」

そうしてクックと笑ってみせる桂を、高杉は片眼でギロッと睨み付け、
「ケッ。晴れてるってのに傘を持ち歩くなんざ、さすが暗記ものばかり得意な手前ェらしいな。先の事にビクビクして、ネチネチ準備ばっかしてやがる。」

すると桂はふふんと笑い、
「しかし今、それに甘んじている貴様はどうなのだ。
お前は何でも、行き当たりばったりで解決しようとするからな。理数に関しては元々センスが有るから良いものの、こんな事態の時は俺が居らねば、ずぶ濡れだぞ。」

高杉は暫く言葉に窮した後、バシャッと水溜まりを強く蹴り、
「五月蝿ェな!全くムカつく野郎だぜ。」


そうこうしている内に二人は、学校から駅前へと抜ける商店街に差し掛かった。突然の雨に、行き交う人々も急ぎ足だ。

「欲を言えば、靴も普段から、革靴にしておくべきだったな。
お前は洒落こけてそんなスニーカーなぞ履くから、そら見ろ。水が浸みて敵わんだろう。」

高杉はもう、怒り心頭に顔が真っ赤だ。
「ンなダッセー指定靴なんざ履いてられんのは、爺臭ェてめーだけだぜ!!」
「ほらほら、そう暴れると濡れてしまうぞ。」
「わわッ…」
慌てて、再び己の方へ身を寄せて来る高杉。桂は微笑んで、

「傘には、こんな効能も有るしな。」
「あァ?何の事だよ。」
「それから、こう言う効能も有る。」

スッ、と斜めに傾けた傘。
視界遮られたその陰の中、
桂が突然仕掛けて来た
甘い、甘い、口づけ。


「バ・バッカヤロォ、こんな人混みで…!!」

今度の赤面は、果たして怒りか否か。高杉が繰り出して来たパンチを、桂は傘を盾にして難無く避ける。

通り雨は、いつの間にかすっかり止んでいたのであった。





【終】
 

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