似非3Z

□Autumn School Days
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「オシャレの秋…」


移動教室より戻る途中。共に並び廊下を歩む恋人の口から、至極唐突に、ボソリと、そんな言葉が出た。

桂が風変わりなのは何時もの事だから、高杉もまた何時もの様に、サラッと聞き流した。
しかし続いて、

「イメチェン…」


またか。
高杉は、半眼の口で溜息を漏らす。
どうして桂は、こう頻繁に自らのイメージチェンジを唱えるのだろう。
この前などは床屋でバッサリやるのを、すんでの所で引き止めた。その美しい長髪と言い、女と見紛う程に綺麗な顔立ちと言い、ほっそりとしなやかな体つきと言い。
桂には、高杉が大好きな所や、羨ましい所が山程有る。

(上背だって有りやがる癖に…。ま、この俺のルックスだって、満更でも無ェンだけどよ。)

なのに一体、何処に不満が有ると言うのか。
放っておくと桂は、また暴走をしかねない。
高杉は、面倒臭さを払いのけて問うてみる。
「なァ、今度は何処をどう変えたいってンだ。」

すると桂は、「ん、ああ…」ぼんやりと、渡り廊下の方を見やる。そこを連んで歩く風紀委員三人組の中央、丁度ガッハハと豪快に笑うところの近藤勲を視線で示して、
「…あんな風に、なれんものだろうか。」

「何だ、近藤みてえになりてェってのか?」
「あの位、豪放磊落で筋骨逞しかったら…」

その先を続けずハァと溜息をつく桂に、高杉は良く言い聞かす様に言葉を掛ける。
「オイ。そうやって既にクヨクヨしてやがる時点でもう、豪放磊落になるなんざ久遠の彼方だぜ。
手前ェ、以前にもそんな事言って体を鍛えに鍛え上げてよ。こないだなんざ俺の目の前で、相撲部の奴らをちぎっちゃア投げちぎっちゃア投げしてたじゃねーか。」

それを受けた桂の視線は、伏せられた長い睫毛の下方を向く。
「そうなのだ…。どうやら俺は鍛えても、筋肉が表に出ん体質らしい。」
視線の先の右掌も、作りこそ広けれど、肉付きは薄い。

高杉はおもむろに、その掌を自らの両掌で、柔らかく挟み込んだ。
「高杉…」
驚きを孕んだ桂の声にニヤリと笑みを返し、

「なァ、ヅラ。俺ァ、今のままの手前ェを、心底気に入ってンだぜ。
第一、あんな筋骨隆々になっちまっちゃア…‥ククッ、
たまに俺が上になる時、愉しく無ェだろ。」

ぼッ、と相手の顔が瞬時に赤らむ。それを認めた高杉はもう一度悪戯気に笑うと、桂の掌への挟みをギュッと強めてから、離した。

「何だったら今すぐにでも、可愛いがってやろうか?」
「バ…馬鹿、此処は学校だぞ!!」

しどろもどろになりつつも、
「…だが、有難うな。」
桂は礼を言い、ようやく微笑み掛けて来る。
普段は頼れる恋人が、時に見せて来る弱気な一面にも心擽られ、高杉の顔にも思わず、はにかんだ笑みが浮かぶ。


しかし桂の心の靄は、未だ晴れ切れずに居たのであった。
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