似非3Z

□委員長のうちへ遊びにいこう
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「今度我が家で、ハロウィーンをせんか。」

共に下校途中の道すがら、桂は高杉に向けてこんな提案をした。

(ハロウィーン…?ケッ、餓鬼のアソビじゃ無ェか。)
思わず鼻白んだ高杉だったが、桂の家に呼ばれる事自体は悪くない。
「アア、いいぜ。」
そう答える表情に、自然明るさが滲んでいたのだろう。相手も、
「良かった。楽しみにしている。」
ニコリと、こちらが見惚れる様な笑みを零した。


その週末。約束した昼前に、高杉は桂の家を訪れた。地元でも有数の旧家であるところの桂家は、高杉の実家にも負けぬ位の豪奢な家構えを誇っている。
屋敷を囲む高々とした板塀と、昔ながらの威厳に満ちた大きな門構え。勝手知ったる人の家、「邪魔すンぜ、っと。」軽く声掛け、くぐり抜ける。手入れの行き届いた日本庭園を経て至る母屋も、堂々たる木造日本家屋である。桂は此処で、医業を営む多忙な両親に代わり、主に祖父母の手によって育てられた。歳の割には落ち着いている雰囲気や、少し(?)周りとズレた感覚は、多分その辺りから来ているのだろう。

そして高杉はこの家を、心の底から気に入っていた。実家のかしましさに嫌気がさし、半ば飛び出す様に一人暮らしを始めた彼に取り、老人主体ののんびりと朗らかな此処の雰囲気は、心をひどく落ち着かせるものが有るのだ。

「こんちはー。」開いたままの引き戸から、覗いてみる。
純和風の広間の中で、相変わらず異彩を放つグランドピアノが、高杉の心を毎度追想に耽けさせる。…餓鬼の頃はヅラと良く、モーツァルトなんかを連弾したっけ――――

「あら、晋ちゃん。いらっしゃい。」
程なくして、上品な和装の老婦人が現れる。
「アア御祖母様、こんにちは。」
「はい、こんにちは。
ふふふ、こたちゃんでしょ。今呼ぶわね。
こたちゃーん、晋ちゃんよォォ!!」
すると奥から、私服に何故か割烹着を羽織った桂が飛び出して、
「御祖母様!!その呼び方はもうやめて下さいと何度言ったら…おお高杉!良く来てくれたな。」
「こたちゃん。私、チョイと今から用事が有るから…おジイちゃんも、歯の先生のとこでまたTボーンステーキ噛める位になって来ると言ってたから、遅くなると思うわッ。晋ちゃんと一緒に、お留守番頼むわね。」
「はい、どうぞお気を付けて。」
「とっても遅くなると思うから、ごゆっくりして貰ってね。」
「…はい、はい。お心使い痛み入ります。」

最後うふふ、と笑い去って行く桂の祖母を見送りつつ、高杉もまた喉の奥で笑う。
「相変わらずいいキャラしてンな、お前ェのバーサン。ファンだと伝えといてくれ。」
「全く、あの達者振りには頭が下がる。是非とも見習って行きたいものだ。」

『いや、そりゃもう充分過ぎるだろ。』
高杉は、内心密かにツッコミを入れた。
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