似非3Z
□刀折矢尽、放課後。
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「先生って、お付き合いしてる方とか居るんですか?」
あービックリした。ヅラ君、飲み会のスゥイーツなダベリなら未だしも、こんな静まり返った教室で、しかも大の大人に向かってそんな事、いきなり聞いて来るもんじゃ無いよ。
まぁその手の質問は、告白前なんかの常套…
いやいやいやいや有り得ねー。絶対ェ期待なんかしねー。
「ハイ手を休めないー。委員長君、早く整理するクラスの名簿ー。」
こちとら何時もの感じでフワッフーはぐらかしてるっつーのに、このウザロン毛ピチ襟元野郎は、ピーチクパーチクお喋りすんのをやめやしねェ。
「先生には何時も、高杉との事で相談に乗って頂いて、お世話になっているでしょう。」
お前ェ、アレな。俺が担任教師になっちまってからというもの、もうずーっと敬語扱いなのな。まァ真面目なテメーらしいっちゃーらしいけど…糞、察しやがれや。ぜってー俺からは言わねーからな。ぜってー。
「だから、僕もお返しに、何か…先生の助けになれたらと思って。」
なめんなー!!大の大人様をなめんなー!!テメーに何が出来るっつーんだ、思い上がんじゃねー!!!
そもそも元凶はなァ、テメー…
‥…大学を卒業し、教職に就いて早二年。思えば色んな事が有りました。
そもそも社会というものは、学生時代の尖んがりっ振りのままでは、良い塩梅に馴染む事を許さないのです。
人に揉まれ、責務に揉まれ。他人に頭を下げる事無く、己を貫くフリースタイルが身上みたいに兎角思われがちな銀八さんだけれども、いやいや、生活と言うものがございます。
周りの空気を読む事を、人の心を推し量る事を、次第に覚えて行きました。
それより何より、
今、この二人きりの教室で、有無を言わさず君を押し倒し、さらけ出した己の激情で全てを壊し尽くしたその終息を思うよりも、
君が今迄通り、こちらも長い付き合いで有るところの高杉君と共に、ニコニコと己に接して来るこれからの日々を思う方が、
何倍も、心休まる。
老いたかなー…‥
「…あのなァ。今はいねーけどよ、その内ぜってー現れんだかんな。白馬に乗った超絶凄絶激烈美人が、俺を迎えに来んだから。そん時になってテメー、アレだぞ。吠え面かくんじゃねーぞ。」
すると野郎、クスリと笑って、
「良かった…と言ったら失礼かな。でも未だ心置きなく、先生をお誘い出来るんですね。
遊園地のタダ券が、三枚手に入ったんです。先生と高杉と僕で、今度の日曜にでも、如何ですか。」
「…。ジャマ、なんじゃねーのォ?」
必死に冗談めかした口調で聞いたらば、
「え、どうしてですか?」
ホントに全く解らねーってツラでキョトンと見詰めて来やがる。うう…俺にとってそれは、残酷なる純真!!
「ったくしょーがねーなー、大人のサイフ目当てか?奢ってやるよ。」
「何言ってるんですか。学校の外じゃ、そんなの関係無いでしょう僕達。
それより、遊園地が益々楽しみになってきましたよ!ワクワクしますね、計画練りません?ドコ回ります?」
全く俺とも有ろう者が、ニコニコ顔のヅラ君と遊園地計画すんのに、こっちもニコニコ夢中になっちまって、
その日、学級名簿の整理なんざてんでサッパリ終わらなかった事は、言う迄も無い。
【終】