似非3Z

□高杉が風邪引いた
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ピンポーン♪
チャイムに続き合鍵を、がちゃりがちゃりと回す音。

アア、ヅラか。
と言う事はもう、学校も終わった時分だな。
ベッドに差し込む光が、やけに眩しい訳だ…

「高杉、邪魔するぞ。具合はどうだ。」
床に散らばして有る楽器や服なんかを跨いで、ヅラが近づいて来る。…オイ、俺のギブソン踏み付けやがったら許さねーからな。

「どーもこーも…だ、」
布団に包まったままほんの少し喋った途端にゴホゴホと、激しい咳が喉をつく。

「ああ辛かろう、余り喋らんで良い。」
医者の息子は真剣な面持ちで、布団の上から俺の背中をさすり続ける。やがて咳も収まると、今度はその優しい掌を、俺の額にピタリと当てた。

…冷たくて、心地好い――――

「ふむ…未だ熱いな。」
そう呟いて体温計を啣えさせてから、結果が出る迄の寸暇に空気清浄機のスイッチを入れ、持参したスーパーの袋からスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、中身をコップに注ぐ。見舞いは今回これで二度目だが、もう手慣れたもんだ。

「銀八先生もな、心配していたぞ。大事にしろと伝え置いてくれと。」
ケッ、何が先生だ、俺の先生は松陽先生だけなンだ、あんなチャランポランな奴なんざ一生呼び捨てで充分だぜ、などと思って居る間にヅラはサブバッグをガサゴソとやり、何かを取り出していた。

「八度四分だとよ、…瓶?」
「良かった、下がって来て居るな。…ああ、これか。庭の金柑が実っていたのでな、蜂蜜で煮て来たのだ。」
「ケッ。俺ァまた、親のトコから特効薬でもパチって来たのかと…ゴホッ、ゴホッ」
「ああほら、無理はするな。
風邪にはな、これが一番なのだぞ。薬と違い、腹にも優しいしな。」

言いつつカパッと蓋を開け、纏う蜜にテラテラ光る黄色い玉を一ツ、スプーンで掬い取る。
「ほら、アーンしろ。」
「…要らねーよ、ンな甘ったるそーな…」
「そう言うと思ってな、甘さは控え目に煮付けて来たぞ。ほらアーンしろ、アーーン」

…解って無ェ。コイツは解って無ェ。
何よりも、このベタ過ぎる展開が、コッチは恥ずかしくて堪らねェってンだ。
風邪引いて、身動き取れなくて、寝込んで、テメーが見舞いに来て、やれ看病するだの、食わせてやるだの…‥


――――!!

ヅラの奴、いきなり口移しで食わせてきやがった。
何時もの手だが、相当焦る。
しかし俺が慌てて飲み込んじまわない様、唇が触れてから寸刻置いて金柑と共に入り込んで来た滑らかな舌は、それをゆっくりと送り届けた後も俺の口内に留まり、先端同士を悪戯気に擦らせてから、おもむろに離れて行った。

「フッ…喉に詰まらせん様にな、良く噛め。」

…良く噛め、じゃ無ェ。
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