似非3Z

□素晴らしきこの世界
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古びた柵に巻き付き実る、
からすうりの赤さ。
乱雑に止められた、
子供達の自転車の向こう。

『松下珠算塾』

懐かしき学び舎は、経る年月にも何ら変わる事無く、此処にこうして有った。

その玄関前で、先刻から妙に落ち着きの無い所作をしているのは、銀魂高校国語教師・坂田銀八と、その生徒・桂小太郎。二人は共に子供の頃、この塾に足しげく通っていたので有る。

「オ…オイ、おめーが先に行けよ。」
「そんな…僕だって、テンションフォルテッシモですよ。」
「‥…。そーみてェだな。」
「大体何ですか銀八先生、緊張してる割には手ブラで。」
「だってさ、向こうが茶菓子出すから来いって言ったんだしさ、
‥…ヅラ君お願い!その手土産、ワリカンにさせて!!」
「…ハァー、しょうがないですね。それじゃ、一緒に行きますよ。」
「お・おう…」
「せーのっ!」

ガララッ。

「「お久し振りです、松陽先…」」

「先生さよならー!」
「あー、終わったー!!」
「腹減っちったー!!」
「ゲーセン寄ってこーぜー!!」
「それより対戦やろーぜー!!」

玄関から一斉に出て来る大勢の生徒達の流れに圧倒され、くるくると再び建物の外へ押し出されてしまう銀八と桂。

「コノヤロー、大先輩に対してその態度は何だァァ!!」
「全く、礼儀を弁えぬ童共だ!!」
遠ざかる子供達を睨みつつ、そう息巻く背後から、

「おや、いらっしゃい。」

ニッコリと微笑みながら顔を出したのは、二人の恩師・吉田松陽である。

「…、あ……‥」
「これは先生、我らお言葉に甘え参りました!
ホラ銀八、貴様もさっさと挨拶せんか!ボーッとしおって全く、何時ものデカい態度は何処へ行った!!」
「…て・てめーこそ何だよ、何時もの気持ち悪ィクソ丁寧語は何処へ行きやがった!松陽先生、こんにちはァァ!!」

松陽はクスクスと楽し気に笑いながら、
「二人共、相変わらずで嬉しいですよ。」

「相変わらずじゃねーよ。俺も今や、いっぱしの高等学校国語科教諭、なんだぜ。」
そう大きく胸を張ってみせる銀八を、桂は横からからかう様に、
「でも授業中、漫画を盗み読みしてる様な体たらくですけどね。」
「何…だと…?バレていたとは迂闊…って手前ェだって近頃の昼飯、いっつもんまい棒ばっかじゃねーか!!」
「ようやく待ちに待ち望んだ味が出たのだ、好きな物に凝って何が悪い!!」
「毎ッ回毎ッ回、昼休みのたんびにサクサクサクサクしやがって…
てめー、陰でのあだ名”んまい棒”になってんぞ。松陽先生も今後、コイツの事は”んまい棒”で一つ、宜しくと。」
「んまい棒じゃない、桂だ!
貴様よりによって松陽先生にそんな事宜しくお願いするなァァ!!」

幼い頃と寸分違わぬ丁々発止を繰り広げる二人に、松陽は再び顎に手を添え、ニコリと笑う。
「はいはい、解りました。さ、一先ずお上がんなさい。”んまい棒”君と、それから…
”ジャンプ”君。」
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