似非3Z

□事程左様に、暝眩。
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困った。
高杉が、今年の誕生祝いの品は要らんと言うのだ。
「だってよ、もう貰っちまったじゃねーか。お前ェの誕生日に、コイツをよ。」
その白き愛らしさの、先端のみ朱を載せたかの様な指先が摘み上げたのは、俺と揃いの、燻し銀のネックレス。

「しかし、それは成り行きで…
‥そうだ。もう一つ、欲しくは有るまいか。」
すると相手は苦笑めいた表情で、
「オイオイ。俺の首ァ、一ツっきりしか無ェんだぜ。」
「しかし俺は、お前から幾つも…」
「五月蝿ェな。とにかく俺ァ、この一本を後生大事にすると心に決めたンだ。
てめーも絶対外すンじゃねーぜ、俺と揃いのソイツをな。」

そんな事を言われては更に愛しさ募り、益々このままでは収まらんではないか。
「無論だ。無論大事にするが、お前の誕生日にも、何か贈らせてくれ。どうか俺を、助けると思って…」
我ながら惚けた真似を、とも思う。しかしそんな事など些末になる程、斯くに恋とは、俺の心を盲目にするのだ。

「じゃア…‥」
刹那、相手の隻眼が猫の如く煌めいた様な気がした。
「今からメールで、通販のアドレス送るぜ。ソイツを是非とも買ってくんな。」
「よし。…む、来たぞ。
何々…お前は今、これが欲しいのか。」
「アア、宜しくな。」
「しかと承知した。…疲れ気味なのだな、余り無理は、せん様にな。」
「ククッ…解ったって。じゃ、楽しみにしてるぜ。」



それから幾日か経ち、今日はもう高杉の誕生日だ。配達されて来たものに心を込めてラッピングをした俺は、それを手に下げケーキも持って、奴の住むアパートを訪れた。

ピンポーン♪
チャイムを押せば、すぐさまドアが開かれた。「待ってたぜ。」笑顔だ。一見嘲謔ばかりに見える高杉だが、実の所その表情はくるくると変わる。時折こんな風に、まこと愛らしい笑顔も見せる。その事に本人は、果たして気付いて居るのだろうか。

「今日はめでたいな、高杉。ケーキは甘さ控え目の、ベイクドチーズで良かったか。」
「アア、手前ェの焼くモンは、全く美味ェからな。早く切ってくれよ。」
「ふふ、そう急かすな。飲み物の方は、任せてしまって済まなんだな。」
「イイって事よ。此処ぞとばかりに、酒を用意出来たからな。」
「なっ…、酒だと?!俺達は未成年だぞ。」
「五月蝿ェな。俺の祝い日だ、飲らねェとは言わせねーぞ。」
「…全く、もう…‥。」
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