お話
□また会おうね
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10月30日。
お絵描き中のイルに声を掛た。
「イルー」
「やだー」
「……まだなんも言ってないじゃん…」
「いまリーダー描いてるのー後でー」
「……(…微妙……)」
イルの絵をチラリと覗き見てそう思ったけど、きっと怒るので黙っておいた。
「猫も描かなきゃ、あと犬と鳥と…」
「イールー、明日はなんの日だか分かるー?」
このままじゃリーダーの周りは動物園になりかねない…そう思って無理矢理話を始めた。
「んー?明日?」
「そ、明日!」
「んー………?」
イルは椅子の上で体育座りして考え出した。でも、どうやら思い当たらないらしく渋い顔をしたまま停止していた。
一生懸命考えている姿も可愛いらしいけど、それよりももっと楽しみな事が待ってるんだ。
「ハロウィン。だよ」
「はろ…?」
しかしせっかく答えを教えても、まるで初耳の様な態度で返された。
「去年もやったじゃん。ハロウィン」
「はろうぃん…」
やっぱり知らない、と困った様な顔をされ、こっちも別にそんなに困らせるつもりはなかったのにと何故か申し訳ない気持ちになってしまった。
「えっと、ほら、街にカボチャのオバケがたくさんいたじゃん。それで…」
「カボチャ!分かったー!!ハロウィンだ!!」
「え、うん。なんで急に…ビックリしたなぁ…」
「あれでしょ?!すごい良い日!大好き!!」
イルの想像以上の食い付きに俺は驚きながらも、お絵描きを止めてくれた事に内心ガッツポーズしていた。
「すっごく良い日だよねメローネ?なんてったって…」
「うんうん。なんてったって…」
「お菓子の日だ!」「コスプレの日だ!」
………
「…メローネ?なんか言った?」
「んーん。別に?」
毎年互いに求めるモノは違えど、そのどちらもがこの一日が大好きな事に変わりは無いんだ。
今年はどれだけお菓子が貰えるだろうか。
今年は愛しの彼に何の仮装をさせようか。
「ハロウィン好き?」
返ってくる返事は分かりきっているのに、あえて訪ねてみた。
「大好き!」
正面から見据えてとびっきりの笑顔の子供。
愛しくて愛しくて。
些細な出来事が悲しくて泣いてしまう彼が、この日だけは絶対に泣かない日。
それがハロウィンだから。
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