お話

□面倒
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彼が静かに眠るその姿を見て

誰かが『お人形みたい』だと言った



俺はその「誰か」が思い出せずにいる




「お人形?」

俺が無意識に口にしたその言葉は

そばにいた親友に聞こえたらしい

「綺麗だね、その表現。誰が言ったの?」

「…知らない」

俺はその言葉を作ったのはもしかしたら

お前なのかもと思っていたのに




目の前で寝息を立てる彼 イルーゾォ を

まじまじと見つめてみる



病的な程色白の頬に落ちる 瞼と睫の影

細い髪の流れる肩は なんとも頼りなく薄い

その肩がわずかに揺れているのを見て

生き物だと確認できる


「ソルベ」

不意に自分の名前を

呼ばれて視線をジェリーに移した

彼は色素の薄い瞳を細めて俺の瞳に言う

「見すぎ」

「……」

知らない間に引き込まれてしまった様だ



目の前で眠る彼を「幻想」と言うなら

今隣で笑う彼は「現実」

なのだろうか


隣の現実には悪いと思うが俺は


幻想と同じ自分の髪と瞳の色が少し誇らしい

と思っている


などとそんな

俺の事は別にどうだって良い


「イルってさ、暇さえあれば寝てるよね」

喋らない俺に飽きもせず話し掛けてくれる

ありがたい存在だ と思っている

「…多分」

「ん?」

多分…

「疲れている…作っていようといなくとも、純粋でいるのには辛い世界だ」

「……うん」

どんな理由があろうとも

どう言い訳しようとも


黒くて狭い世界に生きる者はただ悪と言われる


どんなに綺麗であろうとも俺達もこの子も

憎まれるべき存在だ


その抑圧から少しでも逃れようと

彼は夢に生きるのかもしれない


「あ、ソルベ」

喋るのが好きな彼にとって

はたして俺は良い聞役なのだろうか

「コレ」

手には紙幣

「…?」

「また忘れたの?この間借りた」

「……」

思い出せない

思い出せないが

彼が言うなら貸したんだろう


黙って紙幣を受け取る

「ソルベってさ、頭良いけどバカだよね」

「……」

「あ、褒めてるから」

そう言ってケラケラ笑う彼を見てなんだか

俺まで笑えてしまうのだ

.
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