お話

□緑の海
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「わぁーカッコイイ車ー!」

はたしてコイツにこの車の価値が分かってんのだろうか。

「この車はな、あのスポーツカーで超有名な会社の……」

「んな事はいいから、早く車出してー」

「…てめぇな……」

いつの間に助手席乗ってんだ。

「…俺の運転にケチつけんなよ。安全運転とは程遠いからな」

「うん知ってる」

笑顔で言うなよ。

「死んでも知らねぇかんな…」

そう言うと俺も運転席にさっさと乗り込む。

「ひとりでは死なないもんね」

「道連れかよ」

エンジン音が響く。
隣でわいわい騒ぐヤツがいる。

なんだってコイツは俺なんかになついてんだ?
ぶっちゃけ泣かせた数は知れないし。

「っつーか、そもそもなんで海が見たいんだよ」

「なんか…んー…なんとなく」

「…なめてんのか」

その時その時の感情で動くヤツの気持は分からない。

「ギアッチョ海嫌い?」

ちょっとだけ申し訳なさそうな顔を向ける。
気付いてほしいのはそこじゃねぇよ。

「…嫌い」

「……」

「…ではないけどよ…!」

泣きそうな顔になるのを見て慌てて否定する。
すると、「良かったー」などと笑ってやがる。


そのうち俺の車のエンジン音が煩くて互いの声が聞こえなくなった。

元々コイツも俺も決しておしゃべりな方じゃないし。
だから大声で話すのが億劫になってきて。
だけど、俺の荒々しい運転に時々爆笑したりしている。

楽しいだなんて思わない。思わないけど、フと、40分くらい時間が経った時にアイツの笑い声が聞こえなくなって、気になって隣をチラ見した。

なに寝てんだよコイツ。
よくこんな車に乗って寝てられるな。

ワガママに付き合ったのに、置いていかれた気がしてムカついて。

買っておいたコーラのペットボトルで殴った。




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