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□サヨウナラ☆
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高校三年生になって二ヶ月目。五月の見事な新緑を見ながら、学校へと向かう。綺麗な色の中、鈍色な心中でずるずると重い足を引き摺る。学校が壊れてしまっていたらいいのになんて幼稚な考えを引っ提げて。
俺の通う高校は何故か毎年クラス替えをする。まぁそんなに大きな学校ではないから、してもあまり意味もないし軽い心機一転の為の行事。それで、俺は二年の時につるんでいた友達と離れてしまい、その代わり小学校が同じで顔見知りの銀時と同じクラスになっていた。
で、始業式の日。銀髪の銀時は教室ですぐに見つかり、声をかけて。クラス一緒かぁとか世間話を普通にしていたら、銀時がニッコリ笑って。
「お前ムカつく」
いきなりすぎて意味がわからなかった。
けれどその次の日から。
俺へのいじめが始まった。
学校はやはり壊れていなくて普通に校門を通り中に入る。下駄箱を開き靴を出すと中には大量の虫。しかもまだ生きていて気持ち悪く蠢いている。それを全部、床に落とすと後ろからクラスの男子に蹴られた。バランスを崩し床に手をつくとぐちゅりと虫を潰してしまって。蹴った男子は何事もなかったように通りすぎ、けれど他の生徒の笑い声が聞こえて気持ち悪くなって逃げるように教室へと走った。
「あっおはよう、晋ちゃん。今日もよく来たね」
教室に入るとゴミと落書きだらけの俺の席に銀時が座り明るく話かけてきた。優しく人に好かれる銀時はやる気のないクラスのリーダーみたいな存在で、だから俺に話かけても他に無視されるようなことのない、いじめのリーダー。
なんで俺がターゲットにされたか解らないが、銀時の言うことは絶対で。
「うわぁ朝からぼろぼろじゃん。災難だな」
「………」
全ての元凶はこいつなのに楽しそうに笑われて何も言えずにギリリと奥歯を噛み締める。そしたら今度は柔らかい声で。
「そういう時は返事しろって言っただろ?駄目でしょクラスの秩序乱しちゃ」
また指導が必要だね。
優しい声音のままで腕を捕まれて、トイレへ。その後を数人の生徒がついてくる。
これはもう日課だ。例え返事をしたっていろいろな理由をつけて連れていかれるのだから。
…こいつらはサンドバッグがほしいだけなのだから。
「…ッッぐ、ぅ…ッッ!!」
銀時に髪を捕まれてトイレの壁に頭を擦り付けられる。痛くてそれに手を伸ばすと思い切り鳩尾を殴られた。更に便乗した他の、銀時を慕う生徒が俺を殴る。唇の端がきれ胃液が逆流し、咥内に嫌な味が広がる。壁に背をつけなんとか倒れないように踏ん張っていたけれど足が震えて。
銀時が髪を掴んだまま腕を下に振り下ろした。掴まれたままの俺は勿論髪について床に落とされる。そこに足が落ちてきて、何も出来ずにただ嘔吐いた。
「ぅ、ぅあが、うぇぇ…!!」
「ごめんなさいは?」
ビクビク跳ねる体をなんとか守るように丸まっていると冷たい冷たい銀時の声が聞こえる。
だから呪文みたいに。自分でも気持ち悪いと思う掠れた声でサンドバッグから解放されるためにいつものようにただただただただ、機械的に、う、え、あ、あ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「…そっか。そんなに反省してるなら仕方ねぇな。はい蹴るのやめー。お前らは教室に帰りなさい」
転がる腕を踏みつけられて汚い靴底で頭を踏まれて。床を舐めそうになりながらも言葉を繰り返す。そうして漸く制止の声がかかった時には動けずに、便所の床に身を預けた。喉がカラカラに乾いていてそれでもひたすら唇を動かしていると顎を掴まれ無理矢理起こされる。嫌なパターン。今日は銀時の機嫌が悪いらしい。機嫌がいいと銀時も、さっきの奴等と教室に帰るから。
最悪。
銀時は胸ぐらを掴み正面から、頬を殴った。首から変な音が聞こえて、けれど唇は止めずに何度も何度も謝って。
「ほんっとプライドないんだね」
「ごめ、なさいごめんなさいごめんなさ」
呆れたような銀時の声。
プライドがない?
誰のせいで。
最初に抵抗をしたその時。お前は俺の骨を折った。綺麗にすぐ治るように腕の骨を折られた。医者にそう言われたんだ(折った理由は嘘をついたけど)。よかったね、これならすぐに治るって。
ゾッとした。綺麗な骨の折り方がわかるってことは。
「ごめんなさい、ごめっ…」
「やだ」
バチンと今度は平手打ち。もう体は自分を守るようにすら機能しなくてまともに食らう。痛い。皮膚が突っ張って、耳鳴りがする。その衝撃が抜ける前に手がもう一度振り上げられる。
やだ。やだやだやだやだ。胃液が痛みでまた迫り上がる。謝るのを止め口を閉じる。もし吐いて銀時の制服を汚したら。死ぬ。死んじゃう。
殺される。
「…高杉?」
「……っ」
視界がぼやけて涙が頬を伝う。必死に唇を閉ざしたままぶんぶん首を振る。吐きそうだけど言葉に出来ないから。そうしたら銀時がそっと俺を起こしてくれた。
……え?
いつもならもう一回殴って捨てていくのに。
「…もう殴らないでほしい?」
「……ッッ!!」
ニッコリ笑って。俺はその表情と言葉に縋って何度も頷く。
助けてくれるのか?
解放されるのか?
「そっか」
「ぎんと…」
「なら“許してください、銀時様”っつって俺の足の裏舐めたら“今日は”殴んないでやるよ」
「……………」
最悪。
昼休み。
弁当を開けると中に鼠の死骸が入っていてご飯が真っ赤だったので捨てた。購買に行き適当にパンを買って教室に戻ると捨てた弁当が机の上に広げてあった。しかし、今日は呼び出しがない。
それに少し安堵して、机の上を綺麗にしてからぼろぼろの教科書を持って授業に向かった。授業に出ないとまた指導されるから。
放課後。
普通にトイレに行くと銀時のグループの生徒に捕まった。油断してた。
ベタに体育館倉庫に連れてこられて、ガムテで手を後ろで縛られて。トイレに向かっていたのだから当然、やばくて動けないでいると銀時がカメラ片手に倉庫に入ってきて一言。
「脱がせて腹、蹴ってみ?」
嗚呼。
全部、解ってるみたいで敢え無くズボンを下着事脱がされ放尿。自分では止められずに漏らす俺を画像に納められた。げらげらと笑うクラスメイト。にやついている銀時。
顔が熱い。恥ずかしくて悔しくて憎くて。怖くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて。
どうして、俺がこんな目に合うんだ。
毎日、毎日毎日毎日。気が狂いそうだ。理由すら解らずに殴られ貶され辱しめられて、あああああ!!
限界だ。心が、体が、精神が。
憎い憎い、憎い。
殺してやろうか。
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