記念小説を入れていくよ(・ω・´)

□落とし物※
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怪我をした。
簡単な依頼だったから一人で行ったら騙された。
何がただの荷物運びですか。
生憎、人の恨みなど買いたくない俺は薬なんて運べません。
いくら依頼だからってこっちにも断る権利はある。
そしたら、秘密を漏らさないため処分する?

…ちょっと酷くないですか。

ずるずると重い体を引き摺る。
逃げたはいいが重傷かなこれ。


「……ははっ、新八と神、楽連れてかなく、て…」


よかった。
笑ってそう言おうとしたが続かなかった。
呼吸をすると体が軋み痛みが襲う。
体温が下がっているのか垂れる血液が酷く温かい。
今は夜。
のはずなのに、徐々に視界が白くなっていった。

あー…懐かしい感覚。
これはちょっとやばいかも。

足に力が入らなくなり、路地裏の壁に体を預ける。
半ば倒れ込むように体重をかけると温かい血液が更に飛び散り辺りを汚す。

やばい。

体の余裕が奪われて徐々に焦りが生まれ始める。
それでも崩れていく体。


「―……」


とうとう地面に膝がつき、意識がなくなるその直前。
ざりっと地面を擦る音が耳を掠めた。


「……無様だなぁ」


次に聞こえたは知っている声。
…えーと。
この声は。


「……、た、?」


あり得ない人物が脳裏を過ったあとに、俺の視界は完全に真っ白になった。

あはは。これ死んだかな。









なぁなぁ起きろよ。
いつまで寝てんの?


「………ん」


銀時ぃ。
このままくたばるのか?


「…るさ」

「五月蝿いじゃねーよ、マジで起きろ」

「ッ!?」


耳元でいきなりでかい声が響き、俺はバッチリと覚醒した。


「あっ、…つぅ…!!」


その際、体が跳ねてしまい痛みが伝う。
その刺激に涙目になりながらも瞼を開くと其処は路地裏ではなく布団の中で。
傷から垂れていた血液は綺麗に拭われ包帯がまかれていた。
ああ、助かったのか。


「……っ!?」


そして気付く。
どうやら脳みそは起きてすぐ働いてくれるわけではないらしい。

そう。助かった。
俺は看病されていたのだ。


「………」


視線を天井から布団の端にずらす。
倒れる前に聞いた声。
そしていま起こされた声。


「…いい面だなぁ、銀時ぃ」

「高杉…」


その声の主。
高杉晋助。
そいつが俺の入っている布団の端に腰をおろし愉快そうに此方を見ていた。


「なんで、お前がっ…あ゛」


俺を助ける?
あり得ない状況に体を起こそうと足掻くが斬られた腹部が悲鳴をあげる。
力尽きまた枕に頭を戻すとけらけらと笑われた。


「……なんでって言われても……なぁ?」


すっと、笑うのを止め高杉が薄く目を開く。
緑の隻眼が無機質に俺を捕らえた。
ぞくりと粟立つ俺の皮膚。


「……ッッ」

「理由なんてねーよ。気が向いたんだ」


まさか。
こいつが俺を理由もなく拾うなんておかしい。
もう攘夷の頃の様な義務も仲間意識も存在していないはずなのだから。
いや、攘夷の頃に俺がこいつにした事を思えば何故拾ったではなく、むしろ何故殺さなかったのかと問うた方が正しい気さえした。


「…そんなに怯えんなよ。俺が気紛れなことはてめぇもよく知ってるだろ?」


ぺたぺたと高杉が四つん這いで俺の頭のすぐ横に移動する。
そして覆い被さるように俺の顔を覗き込んだ。


「…銀時ぃ」

「…高すぎ、…っあ!?」


じくりと首に痛みが走る。
どうやら其処も切っていたらしくその傷を高杉の指が拡げた。
拡げられた切り傷からはまた血が溢れ布団を染める。
生暖かい滴が首を伝う感覚に体が痺れ、戸惑った。


「…動けねぇよなぁ…銀時ぃ」


その傷に。
高杉がそっと舌を這わせる。
丁寧に血を舐めとって、いやらしく音をたてて。

昔、俺がやったみたいに。


「…った、かすぎ」

「…ククッ……此処はなぁ銀時。ちょっと人がいる所からは距離のある部屋でな」


部屋。
つまり旅館か何かなのだろうか。
口振りからしてきっと人など通らないそんな場所にあるそんな旅館。


「…どんなに喚こうが喘ごうが誰も気付かない廃れた場所。わかるだろ?」

「…嫌というほどに」


俺の返答にまた高杉は楽しそうな笑みを浮かべた。


「気持ちよくしてくれるよな?」


昔みたいに。




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