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□強きの証
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怪我の痛みに顔をしかめる。
私が上手に出来ないばかりに神田さんに痛い思いをさせてしまっている。


ごめんなさい。


私の口癖だ。
いつもみなさんに謝っている。

身体をはって世界を救おうとしてるのに、私は何をやってるんだろう。
特に役に立つこともなく、逆にみなさんに迷惑なことをしている。

私って、いる必要あるのだろうか?

孤独感が半端無い。























「で、何でオレなんだ」

「あの、神田さんは気が強くて、クールなんで、どうやったらそんなふうになれるのか聞いてみようと…」

「わけわかんねぇ」

「……ごめんなさい」


というわけで、私はもっと強くなるために、神田さんのところへ来ていた。
彼とは時々話すけど、ただそれだけ。

でも、頼れるのは彼しかいない。


「どうしたいんだ」

「え、どうしたいって…」

「お前は、何がしたいんだ」


凄んで言う神田さんの顔を、呆然と眺める。

どうしたいか?
そんなのわかんない。


ただ、もっと強くなりたいだけ。


「そのままでもいいだろ」


突然言われた言葉。
驚いて顔を上げると、神田さんは遠くを見ていた。

彼の視線を辿ると、アレン君とラビさんが喧嘩しているのが見える。

小さく溜め息を吐くのが聞こえた。
呆れているんだろう。


「医療班の人間は、メンタル面で強くなくちゃやっていけねぇ。どんなに酷い傷でも手当てしなくちゃなんねぇからな。普通の人間なら逃げ出すような傷も」


神田さんが私を見る。
その瞳は、やっぱり彼の強さがはっきり出ていて。

輝いていた。
そんな彼が。


「お前は充分強い。逃げ出さないで今ここに居ることが、その証だろ。それに、お前が悪いんじゃねぇ。自分を守りきれないオレたちが悪い」


神田さんが私の頭を乱暴に撫でる。
言われて気付いた。
一人じゃ気づけなかったことに。


「……ありがとうございます」


微かに微笑んで言う。
彼も満足したようだ。

そのまま団服を翻し、何処かへと向かう。


私も、いつか彼のように強くなれるかな。


神田さんの背中が見えなくなるまで、そこで見守っていた。



過ぎ行く時間は

まるで切なく

時とは関係なく



握った拳は、強くなった証。

逃げないよ。
これからも、何があっても。
 

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